ハロウィン計画完了【18】
王家人気投票・テルロバールノル一万票突破記念
 グラディウスが眠ってしまったことで「対人間用」ハロウィンは終わったが、それ以外のハロウィン、即ち「人造人間同士」の菓子と悪戯を巡る攻防はこれからが本番。
 ジベルボート伯爵と共に急いで家に引き返したザイオンレヴィは、玄関前でマルティルディが来るのを待っていた。付き合いの良いジベルボート伯爵は一緒に残っている。
「マルティルディ様、本当にお出でになるかなあ」
 マルティルディは気まぐれなので、来ると言っても来ないことは珍しくはない。グラディウスのように『約束通り来てやったよ』と一度も約束をすっぽかされていない人のほうが稀である。
「どうでしょうね?」
「来ないってことも考えられるよね」
「それはありますけれども……マルティルディ様から”行かない”と連絡がきたら、宿命のライバルがジュラスをかけて勝負を挑んでくるかと」
 ザイオンレヴィに休む暇などない。
「……もしかしなくてもさ……マルティルディ様とのイベントが終わったら、次は……」
 つつがなくかどうかは分からないが、マルティルディが去ってくれたら真剣勝負が控えている。当人の意思などはおかまいなしに。
「ガルベージュス公爵の所でしょうね」
 勝負など『これっぽっちも』したくはないザイオンレヴィだが、そんな事誰も聞いてはくれない。そして学生時代の経験から逃げずに勝負を受けるのが最善だと身をもって知っている。
「マルティルディ様とのことが無事に済んだら、付いてきてくれる? クレッシェッテンバティウ」
「いいですよ。僕は役に立ちませんけれども、下手に役に立つというか勝負ができるヴァレンを連れて行ったりするよりはマシだと思いますからね」
 ヨルハ公爵を連れていったら最後、本気の勝負で大事になってしまう。全てのイベントに対して本気であるベルレーヌと、イベントの全てが戦闘であるエヴェドリットは会さないほうが良いのだ。

 そんな会話をしているとマルティルディが輿に乗って現れた。何時もばらまかれるのは花弁だが、今日は蝙蝠の羽と金色の鳥の羽。
 格好はドレスに、グラディウスには見せられなかった黒い翼を背負った状態。
「ザイオンレヴィ。まさに御光臨なさいましたよ」
「……が、頑張るよ……クレッシェッテンバティウ」
 半開きの玄関扉の隙間から近付いてくるマルティルディを待つ二人。
 戦々恐々と二人が待っている玄関前でマルティルディは纏めていた髪を解き、両腕で払う。黄金が夜から闇を奪い、黒い翼は黄金の翼となる。
「お菓子くれなかったら、帝星壊すよ」
 洒落にならないマルティルディの言葉を受けて、転がるように玄関から飛び出したザイオンレヴィは、
「こ、これ、用意しておきました」
 白い長方形の箱を差し出す。
 白い箱はザイオンレヴィの父親であるサウダライト専有物だが”もらいますよ! マルティルディ様にお渡しするんです!” ”一番上等なのを持って行きなさい” ここで使われる分には問題ない。
「中身なに?」
「ロールケーキです。でも甘くはありません。マスカルポーネチーズとレモンクリームをバジルのスポンジで包みました!」
「君が作ったの?」
「はい! ヨルハ公爵の指示のもと作りました!」
 マルティルディは箱を受け取り中を見て、
「ふーん。貰ってあげるよ。じゃあね」
 蓋を戻して背を向けた。
「えっ! それだけで良いんですか?」
「なんかして欲しいの?」
「いえいえ!」
「それはそれで、ムカツクなあ」
「済みません……」
「ま、君らしいけれどもねザイオンレヴィ。さあ君はこれからガルベージュスの所へ菓子を貰って来るんだ。僕の分もよろしくね。ああ、楽しみだなあ。デスサイズ型のウェハース」
「……」
 マルティルディは輿に乗らず、どこかへと歩いてゆく。その後ろを輿を持った者達と花びらを撒く者たちが近付かず、されど離れずの距離を保ち付いていった。
「よかったですね! ザイオンレヴィ」
「う、うん。気に入ってもらえるといいな」
「気に入ってくださいますって! だって受け取ってくださったんですよ!」
「そ、そうだよね。なんかちょっと嬉しい」
「マルティルディ様に受け取ってもらえたんですから、嬉しくて当然ですよ! ザイオンレヴィ」
 二人で手を叩き、マルティルディに認めてもらったことを喜び合う。
 触れた手のひらからジベルボート伯爵に伝わってきた感情は、けっして”ちょっと”ではなかったが、訂正したりはしなかった。
「それで……ガルベージュス公爵がすんなりお菓子をくれると思う?」
「思いません」
「……それじゃあ行こうか」
 気を引き締めて次なるミッションへと立ち向かう。
「頑張りましょうね」
「ジュラスを巡ってガルベージュス公爵と争う気なんてないんだけどねえ」

 その結末は、ハロウィン城が断崖絶壁から滑り落ちた――

「さすがわたくしのライバル! ザイオンレヴィ」
「だから違うって!」

**********


 メディオンは帰ってきたルグリラドと共に、貰ってきた菓子を広げて、夜遅くの茶会を開いていた。
「あの三姉妹がか」
「はい」
「まったく。じゃが、崩れても美しさの名残があるのう、このゼリーは」
「ええ」
 二人でゼリーを食べて、
「ウェハースの包み紙が……これはやや厚めの銀箔ですのじゃ、ルグリラド様」
 ウェハースの包みを剥がす。
「ほお」
「丁寧に剥がすとここに描かれている模様がなにかを作りだしそうですな」
「楽しそうじゃな」
 二人は丁寧に銀箔を剥がしてゆく
「ああ! 裂けた」
 途中裂けたりもしたが、なんとか剥がし、つなぎ合わせると、そこにはメディオンとルグリラドの横顔が描かれていた。
「ガルベージュス公爵の署名が入っておりますな」
「ほんに器用な男じゃのう……」

**********


 細々とした後片付けは召使いたちが行い、子爵とヨルハ公爵は飾りを外して、部屋の幾つかに、ハロウィンの小さな飾りを”見つけやすい”ように隠す。
「明日、ルリエ・オベラが起きたら、ハロウィン探ししようね」
「そうだな」
 グラディウスは明日の朝、喜んで隠れているハロウィンを探し、
「もうすぐ完成する」
「上手だなあシク」
 最後に硝子のハロウィンをも見つけることになっている。
「これは簡単だからな。それほど複雑な物でもないし」
「そうなのか……そうだ!メディオンにも作って持っていけば? 中の飾りを少し変えてさ」
「そうだな。作ってみるか。ところで図案はどんなのが良いかな」
「メディオンが新しく貰った爵位の紋章を小さく入れておけば?」
「それはちょっと手間がかかるな」

―― 朝目が覚めたら、はろいんは終わってたけれど、あてしは寂しくなんてなかった。おっさんと隠れてたはろいんを捜して、朝ご飯の目玉焼きの黄身がはろいんで、白身がお城だった。全部のはろいんを見つけたら、おじ様が作ってくれたガラスのはろいんが! ――

 大喜びしているグラディウスと一緒に遊んでいるヨルハ公爵を館に残し、子爵はメディオンの元を尋ねた。
「メディオン」
「エディルキュレセ」
「これがデスサイズ」
「もらっておいてやるな」
「そしてもう一つ。気に入ってもらえると良いんだが」
「なんじゃ! 開けてもよいか?」

 メディオンの部屋の人目に付き辛いが、メディオンの定位置からは見やすい場所に硝子細工のハロウィンが、ルグリラドの部屋の一つには額縁に入った銀箔絵が飾られることになった。

【終】



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