偽体と狂草の塔・2
「王の話し相手になってた女は違うな」
「お上手ですこと」
 ウキリベリスタルが通ってた昔の女のことは、別の女が良く知っている。
 昔王の愛人だった女に、王子の愛人になる為に便宜を払ってもらう女が結構いる。毛色の変わった女衒みたいなもんだ。
 この女の紹介で貴族の愛人になって俺のところに来た女がいた。
 その女はカルに惚れて俺のところからは出て行った。その後、テルロバールノル貴族の後妻に納まったことは聞いていた。興味も未練もなかったが、お前に感謝するぜ名前ももう忘れた女。
「お前の紹介で俺のもとまでたどり着いた女、結局はカルがいいって俺のところを去ってったなあ」
「あら、まあ」
「俺を捨てるなんて愚かな娘だとは言わねえんだな。やっぱりあんたから見ても、昔の主の息子の方が格好いいかい」
「好みと申しますかねえ、私はあの方が好きでしたから。世間では色々言われていますが、指一本触れないで話し相手だけを務めていたんですよ」
 愛人は性的な行為は一切なかったと言いきった。
 話し相手をしていただけで、その話も他愛のないこと。王妃との会話ではできないような、普通の会話を帝星にいるときは楽しんでいた。その関係も第二王子のカルニスタミアが生まれたところで終わった。
 カルニスタミアの教育に時間がかかるから、通うことが出来ないと言ってすべての愛人に破格の待遇と金を与えて去って行った……

 特に気に入った愛人はいなかったらしい

 収穫なく情報局のエーダリロクの執務室に入ると、変な顔をしてモニターを眺めていた。
 裏側から透けて見えるタイプのモニターなんだが……
「どうした? 狂草なんか。手前読めるのか?」
「きょうそう? なにそれ?」
 手前、なにしてんだエーダリロク。訳も解らねえのに狂草睨んでたのかよ。
 なにしてんだよと思いながら、エーダリロクの執務机に腰掛けて画面を眺めながら事情を聞く。
 エーダリロクが言うには『部下が勝手に不必要だと思って捨てたウキリベリスタルの認識票が付いていたデータをサルベージした』んだそうだ。
 まあ……部下も悪気はかったんだろうけどよ。
「でも手前読めもしないのに、何でサルベージして睨んでんだ?」
「このデータ、分解できねぇんだよ。だからおかしいと思ってな」
 データを細切れにして捨てるのは情報局じゃあ当たり前にしている。重要データは間違って再構築できないくらいまで分解されるのを避けるために情報分解できないように細工する。細かい事は知らないがな。
「そりゃまあ……分解……なあ。これは分解したら再構築できねえタイプのモンだからな」
 癖の強い狂草だ。
「ビーレウスト、これ読める?」
「自信はねえな。読めるかもしれねえが、狂草ってのは書いた当人しか解らないくらいに崩れる場合が多い。これが『これだよ』と教えられてもいない限りは……期待しないで無限に待ってられるってなら俺もやってみるがよ」
 二人で古代の文字の特殊版を眺めながら『解っていそう』なヤツが思い浮かんできた。
「カルなら読めるかもな」
「カルニスか……」
 ここに書かれてるのが他愛のないことだったら、俺達も見せても構いはしないが、ウキリベリスタルがわざわざプロテクトをかけて暗号みたいな文字で残した『これ』に重要なことが書かれていないとは思えない。
 ちょっと前なら深くは考えなかったが、もしかしたらここに『カレンティンシスのこと』が書かれてたら大変なことになる。
「俺が一応解読してみる。何せ愛人に話聞いてみたけど、全く情報手にいれられなかったからな」
 俺の説明を聞いたエーダリロクは、
「それ、愛人って言うかな? それにさ……」
「なんだ? エーダリロク」
「帝君はどうやってウリキベリスタルの愛人が塔に仕掛けられた秘密を知っているって ”知った” んだ?」

……答えられねえな。

 俺は狂草を睨んで無言になって、エーダリロクは目つぶって腕組んでしばらく黙ってた。
 そして、
「知ってそうなヤツに聞いてくる」
「誰だ?」
「兄貴……いや、ロヴィニア王ランクレイマセルシュに。いざとなったらあの男に金を払って情報を集めさせる」
「ロヴィニア土産、楽しみに待ってるぜ」
「任せておけ」

 エーダリロクはそう言って部屋から出て行った。

「土産はなにかな」

偽体と狂草の塔 − 終 −


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