我が名は皇帝の勝利


― 6 ―


 外に出るのには、相当な勉強が必要な事がわかりました。私は宮廷儀礼などは知っているのですが、一般の暮らし方はわかりません。当然といえば当然ですが。
 お金なども全てタンドローバー公が準備してくださいました。
 通常生活を送る為に、色々と教えていただいていております。主に習うのはあの家のほうなのですが、一つ問題があるのです、それは食事。此方に来て、何かに良くして下さるクバートが食事などを三人分準備してくれます。
 特段に美味しいわけではありませんが、お話しできるのが楽しくて仕方ありません。他の方と一緒の食事で楽しいと感じるのは、母が亡くなって以来だと思い出してしまったほどに。
 陛下とお食事? 今までも月に一度くらいはいたしますが、長いテーブルの端と端に座っておりますから、当然会話などありません。大体、食事も陛下が食べている物と私が食べているものは違うので『これが美味しいですね』そんな会話すら成り立たないのですよ。
 今までそんな事も気にはなりませんでしたが……この先も気にする事はないでしょう。今ごろは陛下はお気に召している女性と仲良くお食事を……あの方が笑ってらっしゃる姿を想像すると無条件で笑えますわ。なんというのか笑った顔が想像すらできませんもの。
 鉄仮面、違いますね鉄面皮でしたか、どちらでも良いですが陛下のあだ名はそのようなカンジでした。仲良く召使やら侍女やらも居ないので噂を話す相手もいないので詳しくは知りませんけれど。
 そんな事よりも食事です。三食分を一度に持ってこさせるようにしておりましたが、別の家で市民の食事を味わっているので当然あまります。食事をまったく手付かずで突っ返しては、医師などが寄越される可能性があるのだとタンドローバー公が仰いました。
 それで考えた結果、捨てる事にいたしました。
 何でも食事を捨てるだけにするのは『もったいない』とか言うそうで(それがどういうモノなのかは、追々理解できるようになるそうです)タンドローバー公がまとめて、孤児院や貧民街の辺りに置いてくると言っていました。
 置いてきた後がどうなるのかは知りませんが、それで無事解決するのでしたら私には異存はありません。
 食事をしながらクバートが働いている大学のお話を聞かせていただいてます。
 市民大学とは、塾の事なのだそうです。貧富の差や徴兵、その他の諸事情で一般的な学業が修められなかった人々が集って、適切な学力を身につける事が出来る場所。
 正規の大学と違うのは、授業料。一括納付が基本の正規大学とは違い、授業毎に支払うのだそうです。その授業形態なので留年などはないのだそうです……留年とはなんでしょうかね? クバートが普通に話している所を見ると常識のようですので後でダンドローバー公に訊いておきましょう。
 そうそう私はパロマ伯爵領の田舎から出てきた娘なる立場です……実際外界を知らないのでそれで丁度いいのでしょう。パロマ伯爵家が古くから続く名家である事、格式のある伯爵家とただの公爵家なら伯爵家のほうが上にある事、それらの家系図の云々などは知っていても外の世界では何の役にも立ちません。
 もう少し慣れたらクバートが講師を務めている市民大学へ通う事にしておりますの、とても楽しみですわ。

Novel Indexnextback

Copyright © Iori Rikudou All rights reserved.