我が名は皇帝の勝利


― 19  ―


「ハーフポート伯」
「モジャルト大公? 何か特別な用事か?」
 俺は皇帝ラディスラーオの異母弟モジャルト大公アグスティンだ……って誰に説明してんだよ、俺。ま、良いか!(ここが思慮深くないと注意される所以だな)俺がハーフポート伯アーロンの乗船している戦艦を訪れたのは訳がある。皇后に関してってのもあるが、もう一つ理由があった。
「特別というわけじゃないが、軍人なら知っておかなくてはならない事だろう。エヴェドリットで主が交代した」
 エヴェドリット王国ってのは一国を挟んだ向こう側にある強国なんだが、ただ今凄い内戦状態にある。一人の少女を巡って混乱の極にいるような状態。
「まさか? どちらかが?」
「違う、また宰相だ」
 オープニングってのか? 出だしはマズは老王が何処かから拾ってきた子供がいた。この老王既に九十を越えていて、政治的な事は七十の息子と四十になったばかりの孫が引き受けていた。孫の方が比重が大きかったのかなあ。それで死んじまって七十の息子もその子供が気に入って政治放棄。ま、まだ大した問題じゃなかったらしいぞ、此処までは。
 七十の王が死んでからが問題、可愛らしいのかどうかは知らないけれど、有能だった四十代で即位した王が骨抜きになった。息子達はまだ十代なんで政治的な手腕もなにもない……そんな中、二人いた息子のうちの長男の方がその子供欲しさに父王を殺害、その罪によって長男も処刑されて弟王子が即位した……まだ語り切れちゃあいないけど次から次へとトップがその娘に骨抜きにされていくらしい。
 国家予算もソイツにつぎ込まれて、大変な状態だ。普通なら既にクーデターなり何なり起こっても可笑しくない……その軍事クーデターが問題だ。
「なら、大丈夫だろう」
「でもな、何時までも元帥が燻っているとは思えない。南方の元帥は放棄しているが、北方は沈黙を保ったままだ」
 王家には当然傍系ってのが多数いる、実際俺も皇家の傍系でアーロンも傍系だ、流れは違うけどな。
 アーロンはガートルード母妃系列で結構解かり易い。俺は五代くらい前の皇帝のなにかが、あれしてああなった……正直どうでも良いような血筋。大体、皇帝になろうなんて思わないような血筋だぞ? このくらいなら沢山いる、目の前のアーロンのほうが余程血筋としては「確り」している。
 俺なんかは、生まれたハイケルン伯爵家を死んだ兄(バカな男だった、我が兄ながら……)が継いで、良けりゃ男爵くらい貰ってボハーっと生きていく予定だったんだけどさ。バカな兄に似て大した度量も才能もない。なんだけど、母違いの兄は俺に大公の位を寄越した訳。伯爵の息子なんで伯爵でいいです! ってみたものの大公にされちゃったってカンジだな。バカな弟だから大公位を与えて飼っても脅威はない、そんな所じゃないか? 実際兄にたて突く気にはならないしさ。
「確かにそうだが」
「正直、武力で国を奪還するとしたら北方だ。北方元帥ニーヴェルガ公が即位したら、お前の伯父であるヴァルカ総督でも抑えきれないぞ」
 話しはずれていたが、エヴェドリットの傍系王族は三人ほどいる。その中でもっとも問題視されているのがニーヴェルガ公ジルニオンという男。完全な男性嗜好なクセして娘をも儲けたツワモノだ、王家ってのは人工授精の類を一切認めないから確実にヤってんだわその男。人工授精か自然受精かを見分ける技術は異常に発達しているからな……後継者争いに絡んで。
 当然もう一人の王族はそのニーヴェルガ公の娘、確か十三歳くらいだった筈だ。それで最後の一人が、何故か王位継承権を固辞して南方の前線に居座って超大国に睨みを利かせているベルライハ公エバカイン。超大国はエヴェドリットからみれば一国挟んだ向こう側だけど、手前の国なんてベルライハ公が本気になりゃ即日終わりだって専らの噂だ。
「内乱で潰れてくれれば良いのだが」
 アーロンの言葉は全宇宙の国の為政者が呟いている言葉だ。中央は怖くないんだが……中央をどちらかが取りに行けば怖いんだよな。俺の兄も内政じゃあ引けを取らないとは思うけどさ、軍事になったらどうなるか? アーロンの伯父ヴァルカ総督も強いがあくまでも艦隊戦だけだ。
「嫌な噂が流れてきている……あの狡猾なニーヴェルガ公だ、わざと流したのかも知れないが。機動装甲を四体発注したそうだ」
「誰の?」
「ニーヴェルガ公本人のだ。あの男の搭乗するヤツを四体とくりゃ、二年は軽くかかるだろうさ」
 俺たちの国や隣国で派手に戦争しているアスカータ共和国なんかじゃあ、コイツを操縦できる人間は一人もいないけれど(昔はいたが待遇のいい国に移った)凄い戦闘能力を誇る兵器なんだ、コイツがよ。何たってエイリアン相手に完全勝利を収めるために改良に改良を重ねた兵器なんだから。

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