我が名は皇帝の勝利


― 16  ―


「パロマ領に行きたいと聞いたが?」
「ええ、行って参ります」
 話しは終わった……リドリーが色々と考えてくれるが、特にこれと話す話題がない。
「レンペレード館は気に入ったか」
「ええ。一人でゆっくり出来ますので。陛下は侍女がいなくてつまらないでしょうから、お戻りになられたらいかがですか?」
「ふんっ、次元の低い嫌味だな」
「嫌味ではなくて事実ですが。お話はそれだけで御座いましょう?」
「それだけだ」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
 正しく会話がない。愛妾は簡単だ、ただ身体の関係だけで良い。抱こうが何をしようがあいつ等は反抗的にはならない。皇后の決して反抗的ではないのだが……へつらってこない分、扱い方が難しい。媚び諂う人間のほうが扱いやすい、余は。
 すっきりと痩せてしまった皇后の肩を掴む。
「何か御用ですか?」
「孕ませるつもりだが」
 これ抱いたのは二年程前の事。何時もではない、正直数え覚えていられる程度の回数だ。特に魅力的な身体ではないが、余も大した事はないから……処女であったという事実から見れば、それはそれで魅力的だったに違いないが。言えば女を馬鹿にしていると言われそうだが、快楽を追う女は嫌いなのだ。余の母親がそうであったが故に。
 その部分においては、この慣れない皇后の態度は嫌いではない……当人は楽しくもなんともないだろうが、楽しむような女が嫌いなのだ。余の性癖に合わせられて不本意であろうが。
「孕ませる……」
 その言葉に皇后は肩に乗っている余の手にそっと掌を添えて
「陛下、排卵日は二週間後ですのでその時においでください」
「……」
 余はこの上なく言葉を失った。
「本日関係を持ちましても、絶対に無理ですので。私も大人になりました、どうすれば子が出来るかくらいは理解できるようになりましたので」
「……そうか」
 孕ませると言った手前、こう返されてしまえば他に言う言葉もない。余は皇后の肩から手を外して、館を出た。無理強いする事は出来るが、無理強いしたいとまでは思わなかった。ここが余の矜持の安さなのだろう。
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