我が名は皇帝の勝利


― 14  ―


「パロマ領? ……デイヴィットがか?」
「はい」
 皇后が家臣の領地に遊びに行くのは珍しくもない。ダンドローバー公爵ならば間違いの一つもなかろうし、何より既に無人化しているパロマ領ならば身の危険もないだろう。勿論、宇宙浮浪者が住み着いている可能性もあるが、そんなものは惑星スキャンの一つでもかけて殺してしまえばよい事だ。
「あれは行きたいと言っているのか?」
「ご意見の方はうかがっておりません。陛下がお聞きになられては如何でしょうか?」
「面倒だ……とも言ってられぬか。明日にでも来るように通達しておけ」
「かしこまりました」
 リドリーは城代の息子だ。余の父親の伯爵城の城代を代々務めていた家柄で、その縁で余と会話するようになった。リドリーは城代の息子として、城代が集まる会合などによく連れて行かれていた。城の管理を引き受ける城代達は、どの業者が信用できるだの、庭園の今年の流行りはこれだとか……それらを話す事会合の場があるのだという。言わば城代のサロンだな。
 そこでリドリーはリガルド・デ・グリーブスと知り合ったという。パロマ伯爵領の城代の息子だったその男は、公爵家の養子となった主について行ったという。それでも城代関係の集まりには参加しており、年の頃も近かったリドリーは友好を深めたという。
 それが縁で、余と皇后の不仲を改善するのに間を公爵に取り持ってもらうという案を提出してきた。
 女性に対して何ら感情も持たないダンドローバー公ならば適任と言うわけだ。
「行くも行かぬは明日決定するから良いとして。今、余の興味はあの国にある。あの王国はどうなっている?」
「エヴェドリット王国ですか?」
「そうだ」
 我が国に領域が接していない、だが底が見えず恐ろしさを感じさせている王国。その国が二年程前から凋落を始めた、正確に言えば王が堕落しだした。
「中央は完全な空白状態となっておりますが、南北の元帥は健在です」
 その国が攻められる事もなく現状を維持していられるのは、二元帥の力によるところが大きいのは、どの国でも知っている事だった。ただ、このまま王が堕落していけば、最終的には厄介な元帥達が王座につきかねない。傍系の二人のうちどちらかが登極しても、他の国にとっては厄介な事であった。特に、ダンドローバー公と同じ性癖を持つと言われるニーヴェルガ公などが王に納まれば、玉座に座ったその瞬間から遠征を命じると恐怖されている。
 我々の国とエヴェドリット王国の間にはアスカータ共和国しかない。その国が滅びてしまえば、この国が侵略されるのは確実であった。
「攻めてこられたら総督のヴァルカでも抑えられまい?」
「はい。こちらの地の利と遠征の疲労、それに全軍で迎え撃つという条件であっても、向こうの一元帥が率いてきた遠征軍の方が強いかと存じます」
「このまま空白が続いて弱ってくれれば良いのだがな」
 皇后の事などすっかりと忘れて、余は遠い国の為政者ではない軍人達の動向に思いをはせていた。

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