藍凪の少女・後宮配属・寵妃編[18]
− ここで幾つかの補足説明をしようか −
 グラディウスとリュバリエリュシュスの出会いだが、あの時彼女はグラディウスに向かって 《帝国語》 で話しかけていたので理解できなかったのだ。
 グラディウスはリュバリエリュシュスの言葉が 《言語》 であることは、最近の生活で理解できるようになったが 《理解》 はできない。
 彼女の必死の問いかけが解らなかった事に泣いたのは、その為である。


「おっさん! お帰り!」
「出迎えありがとうね、グラディウス!」
「おっさん。今日は晩ご飯食べたら、何して遊ぶの」
「そうだねえ……」


− 補足説明を続けよう −
 リュバリエリュシュスが知りたかった事柄だが、ルサ男爵が再度聞き、まとめてからサウダライトに提出しておいた。
 サウダライトはそれに目を通し、全てを教えても良し判断を下し息子のザイオンレヴィに「教えて差し上げるよう」命じた。
 ザイオンレヴィは 《白鳥さん?》 という言葉に出迎えられて、彼女に皇帝サウダライトが立った理由を語る。
 新月の夜空を背にして立つザイオンレヴィを見て、リュバリエリュシュスは月が目の前に降りてきたかのような感覚に陥っていた。
 ザイオンレヴィは父であり皇帝の命を受けて、包み隠さず全てを語る。
《貴方が皇帝になると思っていた男、皇太子ルベルテルセスですが、彼は自らが突然変異を起こして重大な ”身体構造の変化” が起こったのにも関わらず、それを隠し続けていました。その理由とは……》
 彼女はこれにより殆どの真実を知る事が出来た。全てを知るのはもう少し後のことだが、それは然程重要なことではない。


「お外でお星様見るんだ!」
「そうだよ。今日はお月様がない日だから、星がとてもよく見えるんだよ」
「でもちょっと暗いかも」
「大丈夫だよ。おっさんが居るから。ザイオンレヴィはいないけど」
「うん! おっさんが居ればあてしは元気! じゃなくて、平気!」


− うわさ話に付きあってくれるかい? −
 必要あるかないかは解らないが、両性具有の話だ。
 これは ”私” も真実は知らない。又聞きのその又聞きが……と誰が言ったのかはっきりとは解らないから、精度は保証しない。
 両性具有の寿命だが、単一性の両親から生まれた場合は五十歳前後なのだそうだ。
 祖父母に両性具有が存在しない場合は五十歳半ば。
 祖父母に両性具有が存在した場合は四十歳後半になる。
 この二つを合わせて 《寿命は五十歳前後》 とされているのだ。
 祖父母がどうして関係あるか?
 ああ、このことを知らない人まで、うわさ話を聞いていたのかい。
 それじゃあ説明しよう。知っている人には、また繰り返しだろうけど、まあ聞きなよ。何か新しい発見があるかも……いや、ないか。
 解った、話すよ、話すって。両性具有は一代飛ばして遺伝する確率が非常に高い。
 両性具有の子は単一性が多いが、その孫は八割以上の確率で両性具有になるのだ。

 ん? 確かに不思議だが、それを言われると困るな。

 隔離されて、繁殖しないように監視されているのに、隔世遺伝の確率が計算されているのか? その質問をぶつけられても ”私” には解らない。
 何となくは解るけどね。
 何故って? それは、うわさ話だけどな 《両性具有は兄弟姉妹近親婚以外で代を重ね、孫に両性具有が生まれると、その個体の寿命は通常よりも十年前後短くなることがある》 のだそうだよ。

 それがどうしたのかって? さあねえ。

 今、巴旦杏の塔の中にいるリュバリエリュシュス・アグディスティス・ロタナエルの寿命は三十四歳と公表された。
 これはどういう意味だろうね?
 勿論、マルティルディ殿下が何らかの目的の為に、寿命を短く偽っている可能性もある。何せ、彼女の寿命を知ることのできる唯一の手立て 《神殿》 
 そこに立ち入ることが出来るのは、暫定皇太子であるマルティルディ殿下と現皇帝サウダライトだけだからね。


「お星様……村にいたときを思い出すなあ」
「グラディウスは故郷好きかな?」
「うん……でも、もう兄ちゃんのところには帰れないから」
「帰っちゃ駄目だよ。グラディウスはおっさんとずっと一緒にいるんだから」
「おっさん……」
「でもどうしても帰りたい時は、ちょっとだけ帰っても良いよ」
「う、うん! あてしお金ためて、村に驢馬とか山羊とか買って持って帰りたいなあ。何時になるかわかんないけど。それまで頑張ってお仕事するんだ! 一杯働かせてね! おっさん!」
「もちろん」


− また補足説明に戻ろうか −
 帝国の就業年齢がやや曖昧なのには訳がある。帝国は人類が住む惑星を含む全宇宙を領域とする、巨大統一国家。
 地球上の一国家であっても、領土が大きい場合は国内に 《時差》 が存在していた。それとは比べようもない程巨大な帝国には、当然ながら住んでいる場所が違うと 《年単位の誤差》 が現れる。
 惑星は惑星で、基本に則り一日を計測し、そして一年を計測する。惑星には多種多様な自転をしており、公転をしている。
 人が住める惑星に人が住むので、公転や自転には決まりがない。それらに決まりがあるのは、王城のみである。
 何故王城に決まりがあるのか? それはもう少し待ってくれ。
 惑星は星系に属していて、星系は王家、または皇帝に属していることは知っているな? そうだ、惑星は三年に一度自分達の住んでいる惑星の暦を、星系時間に換算して、その際に肉体年齢を調節する。
 一年が五百日ある惑星と、一年が二百五十日しかない惑星に ”同じ人類” が住んでいる。前者の二十歳と後者の二十歳は大きな隔たり生まれてしまうことは誰にでも解ることだろう? だから三年に一度、標準時間経過にあわせた年齢調節が行われるのだ。
 星系時間とは、支配者が与える時間である。すなわち王城がある首都惑星の時間だ。
 王城の時間経過は帝星の時間経過と同じである。王城を決める際の条件でもある。帝国の標準時は皇帝の玉座のある位置に存在する。
 だが 《絶対標準》 は神殿に存在しているとされている。正しき時間を知る事ができるのは、これもまた皇帝だけなのだ。

 話が少しそれたな、戻そう。よって王族や貴族は年齢が正確だが、それ以外の階級は年齢的には曖昧な部分が多い。その為、年齢はある程度幅がある。
 退職年齢というのも、基本的には存在しない。決めてしまうと、惑星間の転勤をするような仕事をしている人などは、退職後に年齢計算が届き退職年齢に到達していなかったことになり……と問題が生じてしまうからだ。退職は基本的に自由で、一箇所での勤続可能年数は四十年が限度とされている。


「ドミニヴァス。御目出度う、また一年若返ったぞ!」
「一歳若返ったって、二十八になっただけだろうが、レンディア」
「良かったじゃないか、三十歳が遠退いて」
「今更三十代になるのが嫌とは思わないけどな。……ちょっと修正用プログラム貸してくれるか?」
「いいぞ。どうした?」
「んー。あの子さ、今思うと十二歳だったけど……もしかしたら計算し直せば。やっぱり! 十一歳だ」
「おい、本当かよ!」
「いや。今はもう十二歳になっている筈だ。帝国移動時間と、帝国日数を足してくれないか」
「いいぞ……あ、本当だ。ここに来たときは、標準じゃあ十一歳か。えっと……今は標準じゃあ十二歳半ばになる。どうする? 帝国の方に報告するか?」
「下働きの女の子の一歳の年齢誤差なんぞ、帝国じゃあ問題にしないだろう。それにこれから帝国で働き続けるのなら、一歳の誤差だけでこの先は年齢誤差は生じないから……でも十二歳か。頑張ってりゃあ良いけどなあ」

おっさん! あうぅ……おっさああ……おっさあ……もう、入らないよぉぉ

− そろそろ最後になりそうだが、何か聞きたいことはあるか? そいつの事か、解った −
 ガルベージュス公爵の事だが、彼は両親に大公を持つ二十三歳の男だ。帝国軍総司令長官として現帝国で軍事権を一手に握っている。若い総司令官と映るだろう、実際に若いが、これにも諸処の理由がある。

 わかった、数えるよ。いぃち、にいぃ、さぁん……むぎー。おっさん、そこに指いれちゃ!

 軍事国家の帝国だが、今は平和だ。
 それもあり、帝国軍総司令長官は皇帝が就かぬ場合は、その皇帝が即位するのと同時に、新たな長官が任命され、皇帝が退位か崩御するまでその地位は保証される。
 いわば名誉職のようなものだな。

 おっさんの指のぬるぬるが……ぬるぬるが……

 ガルベージュス公爵はケシュマリスタ王太子の夫であるイデールマイスラと知己である。親友はザイオンレヴィらしいが、イデールマイスラは確かに知人であり、この夫婦の 《仲》 を誰よりも心配していると、軍内部では専らの噂だ。
 うわさ話が好きなのかって? そう言うな、聞いているお前も好きだろう? ああ、私も好きなのさ。

 むぎゅー……は、はああ……はぁ……おっさん……

 そうだ、最後に一つ。これは関係あるかないか解らないし、また噂だがマルティルディ王太子の即位は四年後だそうだ。今から壮大にして絢爛な即位式典に向けて準備が進められているらしい。
 何だ? 最後に色々と質問があるらしいな。
 ケシュマリスタ現王? 知らないのか? ラウフィメフライヌだ。お前は本当に帝国の民か? 皇帝と四大公爵の名くらい覚えていて当たり前だぞ。ど忘れしたのか? そうか。そうだな、両性具有のことを知っているお前が、王の事を知らない筈ないものな。ケシュマリスタには疎いのか。それもあるだろう。
 ああ、時間が迫っているな。現王の最初の王妃はラウフィメフライヌの叔父夫婦の娘で、この血統を伝えているのがマルティルディ。次の王妃はロヴィニア王女で、此方がサウダライトの祖先に当たる。そう言えば、もう一人この血統の皇王族がいたが……ああ、時間だな。終わりだ。

 最後が思わせぶりだって? じゃあ言っていくよ。その皇王族は死んだ。それだけしか知らない。何時かまた会う事があったら、その時にまた。

[途中音声に混線があったことをお詫び致します]









 私は誰? と聞くのか? 何時もそこに居るのだがな。気が付かないのか? お前は。
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