PASTORAL −189
 この格好……
「お似合いですよ」
「そう?……」
 彼等は “似合う” としか言えないよなあ。
 このアイボリーの二の腕まである手袋と、同じくアイボリーの太股まであるブーツ。何故か後ろ側に線が入っている。「コレ何?」と衣装係に聞いたら「親王大公殿下が “エロス” と申されていらっしゃいました……」って言って頭下げちゃったんだよなあ。
 それを言った親王大公は一体誰?
「そしてこれを」
「う、うん……綺麗だねえ」
「特注のマリアヴェールで御座いますよ。正配偶者の衣装は全て特注ですが、これはその中でも特別です」
 俺、こういうの興味ないから知らなかったけど、マリアヴェールって言うんだ。可愛い人なら似合うかも知れないけれど、俺はねえ。
「そうだねえ、確かに綺麗だ……」
 それを俺が被った瞬間、高級マリアヴェールが何かもう……マリアヴェールを発明した人、今までコレを被った人に謝りたい。
 ごめん、何か俺が被ったことで、マリアヴェールの存在自体がもう……笑いのアイテムに変わってしまったような気がする。全身が映る鏡の前で、素人目にも解る高価なレースがふんだんに使われたマリアヴェールを被って、笑えながらも暗澹たる気持ちになった。


 普通の帽子じゃ駄目だったのかなあ……


「皇君殿下、お部屋にお入り下さい」
「はい……」
 前隠すわけにもいかないし、男同士なので隠す必要もないのでそのまま部屋にはいった。この格好で手で前を隠してたら、それはそれでおかしい……いや、この格好の時点で『かなりおかしい』と思うのだが、皇族や王族は違うのかなあ。
 部屋に入ると、立会いしてくださる五名がすでに居られた。お兄様のお姿はまだないが。何処に居ればいいのかな? と思っていると、カルミラーゼン兄上が手招きしてくださったので、マリアヴェールを掴みながら駆け寄った。
 下半身の感触が微妙だけれど……。
「エバカイン。このカルミラーゼンが発注したマリアヴェールは気に入ってくれたか?」
「は、はい」
 このマリアヴェールを作ってくださったのはカルミラーゼン兄上だったのか……何故俺にこのマリアヴェールを被せて寝所に……
「ロガ兄上! このクロトハウセが用意させたブーツと手袋は如何ですか!」
 手袋とブーツはクロトハウセだったんだ。
「だ、大丈夫じゃないかな?」
 えっと、これは同性愛がどんなもんか知っているクロトハウセが最高の着衣(何も隠れてないけど)用意してくれたと思えばいいのかな? そうだよね! きっと!
「ロガ兄上! ルライデ確りと見させていただきますので!」
 ルライデが本当に嬉しそうな顔とキラキラとした瞳で俺を見ているんだが……本心としてはあんまり見ないで欲しいんだけど……。
「そ、そう?」
 デルドライダハネ王女と普通の生活送っているだろう弟に、実兄と異母兄の性交渉を公然と見せるのは、覚悟は決まっていても辛いです。
 嬉しそうにしているルライデの隣に立たれている無言のケシュマリスタ王。
「…………」
 ああ! カウタマロリオオレト殿下の視線が痛い!
「聞いてはいたが、間抜けな格好だな」
 ゼンガルセン王子の言う通りかと。
 それにしてもこの格好……
 俺、陛下のご結婚に関しては詳しく知らないんだけれどさ、女性皇帝と男性配偶者が床を共にする時って、男性配偶者は全員こういう格好して臨むんだろうか? 全裸に手袋とブーツとマリアヴェール……軍警察時代に書類にあった『露出狂』所謂『猥褻物陳列罪』で捕まる人の格好に近いような……遥か斜め上をいっているような。
 着ているものの高価さでは全く次元が違うけど……この格好……変だよなあ。
「陛下!」
 そんな事を考えていたら、お兄様がいらした!
 白い襟の高いマントをまとっていらしたお兄様は、俺や皆様の傍まで来て、
「そなたは恥ずかしがりやな故、余も似たような格好をして参った!」
 似たような格好? えっと、それはもしかして?
「さあ! 来るが良いエバカインよ!」
 ぶわさぁぁぁ! っとマントを脱ぎ捨てたお兄様は、言われた通り俺と同じく全裸に手袋とブーツのみ。違う所と言えば……既に臨戦態勢が整われているアレと、その堂々たる態度。
 お兄様はいつでも堂々とされておりますが、今日は一段とその……輝かれてます、神々しいです!


 露出狂の諸君!
 諸君等に言っておこう!
 君達が通報されるのは、その態度が凡人だからである
 そのモノが貧相だからである!
 もしも、この私の兄にして銀河帝国皇帝陛下が道端で、このような格好をなされても
 誰も通報しないであろう
 この迫力を前に誰もが通報なる言葉を忘れ去るに違いない
(実際の所、通報してもらわなきゃ困るんだけどさ)
 これこそが生まれの違いなのかもしれないが
 この態度、そしてこの威厳
 どんな姿をしていても真の王者は決してその風格を失う事はないと言われているが
 それは、本当なのかもしれない


……お兄様! 俺が恥ずかしがっているからって……ごめんなさい! もっと堂々としてれば良かったぁぁ!


 ベッドに座られ手を差し伸べてくださるお兄様、そしてマントが床に落ちる音。
「ほらほら、緊張しないでエバカイン。大丈夫だからね」
 カルミラーゼン兄上に手を引かれ、俺はよろよろとベッドの上に上がり、全員が直ぐ傍まで来た。
 その、好奇心のない使命感に燃えたような瞳で見つめられると……頑張るんだ! 俺! こんな所で、へこたれるな! ああ、でも視線が痛くて、萎えてるよ……俺の根性なし! 頑張って勃たせるんだぁ! エバカイン!!
「そう緊張するな、エバカインよ。余に任せておけば何の問題もない」
「は、はぃ……」
 ご、ごめんなさい、お兄様。
 これだけは! これだけは! そして今だけは! 今だけはお兄様任せにさせてください! 自分から動くのは! マリアヴェールを両手で持って顔の所に持ってきて隠れてますので!
 お兄様はそんな硬直気味、でも縮んでるそれを舌先で……うぉぉぉ! いやあぁぁ! 声には出せないけど、いやああ! お兄様、いや! 皇帝陛下の御口でされているのを他人に見られるのは……ああ! ああっ! 気持ちいい! ……そうじゃなくてっ!
「お兄様、もう……もう……」
 恥ずかしいから、ザスッと入れてゴスゴスッ! と擦って終わらせてくださいませ! ああ、思い出すなあ……お兄様と初めての時。その大きさを前に三擦り半で終わってくださいませんでしょうかと祈ったあの時、今もその気持ちは変わらずです。進歩なくて申し訳ないです。
「んっ……」
 いやああ! 変な声が上がっていやあ!
 いや、良いのか? あんっ……いい……いや、あの、声の一つも、それも感じている声の一つも上がらなかったらお兄様が……かっ! 感じてっ! いや、あの……
「あっ……んっ! んっ! あん……あぁ、うぁっ……あん、はぁはぁはぁ。も、もう……」
 俺の上にいらっしゃるお兄様は、突然顔を上げて、
「ゼンガルセン」
「はい」
「近くに寄れ」
「では」
 ゼンガルセン王子を呼ばれた。
 その間も腰は、的確にかつ不規則に、なんてのかなあ……もう、そろそろ……意識を一瞬飛ばしてもよろしいでしょうか?
「んぁっ!」
 俺はいきかかった意識の中、お兄様が突然手を伸ばし、ゼンガルセン王子を傍に引き寄せ、そして俺のソレを固定して、アーチの軌道を修正なさった。そのアーチは見事にゼンガルセン王子の顔にかかった。

 ゼンガルセン王子に顔射……して、しま……っ、たぁぁぁ!


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