PASTORAL −19
 近衛の訓練場なので、陛下がおいでになる事が前提、よって控え室の通常では考えられない豪華さだ。
 前宮にあんまり縁の無かった(後宮はもっと縁がなかったが)俺には、どの部屋も豪華絢爛で片付けてしまえる。どの部屋を見ても、同じな豪華さにしか見えないって訳だ。
 医師に外れた肩を治療させた後、
「何処も骨折しておらぬようだな。中々の戦い振りであった、褒めてつかわす」
「ゲホッ……もうしわ、……ありがた……おこっ……とばっ……」
 もう少し時間をいただきたいのですが、兄上。
「11:30か」
 そう仰りながら兄上、近付いてこられて、
「えっ!」
 服を破かれました。表情一つ変えないで、大きくビリッ! という音が聞こえたかと思ったら、上半身が開けられている。
「あっ! あにうぇう……へい! ぁ!」
 俺の名誉の為に言っておくが何かされてる訳じゃない、呼吸がまだ整わないだけだ。兄上が何をなされたかと言うと、ズボンを“ズボンだったもの”に変えられた。兄上が両手で引き裂けば、あんなに簡単に布切れに変わるらしい。
 そして襲われるって、この状況に近いんだろうな……と他人事のように考えつつ、自分の露わになったそこを見た。
 激しい運動した後って、軽く立ち上がるんだよな。それを見下ろされている、兄上が。他の人だったら(三大公・四大公爵系列は除く)“お前もだろっ!”とか笑って相手のズボン下げるくらいは出来るが、相手が相手。
 ってか、兄上のズボンずり下げて勃ってたらどうする気だよ、俺……想像するだけで怖ろしい……。
 兄上は呼吸もまだ整わない俺のそれを口に……! ああ、兄上
「やっ! あっに……へい……かぁ……」
 驚きと恐怖と、まだ整わない呼吸。一気に酸欠状態が加速したような。失礼極まりなく、兄上の口の中で縮み上がっている俺。

食い千切られる恐怖ってこういう事言うんだね!(自分が半泣きのような気がする)

 口を離されると、
「酸素吸入」
 別に酸素が足りなくて縮んだわけではなく……俺、酸素吸入受けながら、されるんですか? それでも怖いには怖いが、感触は心地よく(必死に勃ってくれ! と念じはしたが)酸素も吸入されてきて、呼吸も楽になってきた。……だから、此処でそれに浸ってる場合ではなくて!
「兄上! 間違えました、陛下!」
「兄上で良いぞ」
「よ、汚れておりますので。お口汚しでございます!」

本当に自分の語彙のなさが、情けない。何言ってるんだ……

 汗をかいた事を気にしていると思ってくださった兄上は、俺を肩に担いで隣の浴室へと向かわれた。降ろしてくださいと言うにはまだ、呼吸がままならない。二年振りの訓練が、最強近衛団の模擬戦闘ってのは辛すぎだ。そして、担がれておきながら悪いのですが汗がまだ浮かび上がってくる俺の身体に、 兄上の赤い髪が纏わり付いて……こっ! 怖い!
「熱い湯で平気か?」 
「はい」
 今なら水風呂に入っても平気な気もするが、折角温かい……? 今“熱い”っておっしゃられませんでしたか?
「そう、しがみ付いてくるな」
 はからずも兄上に抱きついております、失礼ですが……
「申し訳、ございません!」
 熱っ! 熱っ! な、なんで兄上って水風呂か熱湯風呂かの二つに一つなんだ? おまけに兄上、服着たままだ。後に聞いた所によると48℃だそうです、因みに水風呂のほうは8℃。……何故38℃くらいになさらないのであろう。
「運動した後は、こちらも柔かいな」
 ええ、まあ……その、やっぱりヤるのですね。俺もすんなりと指一本受け入れてしまってますし、はい……最も指一本が抵抗なかろうが、兄上の前には全く持って無意味なんですけれど。
 温かい湯じゃなくて、冷たいほうが良かったような気がする。少しはこの酸欠状態の脳が確りしそうだから。俺が確りしなくとも、兄上は当然ながら平気でいらっしゃいますので問題は無いのかもしれませんが……伽としては……。
 兄上の「持て」との一言発せられた後、浴室の床に液体ベッドのマットが敷かれて、俺の傍には酸素吸入要員が控える。
 液体ベッドマットの上で酸素吸入されながら……酸素吸入しながらしたのは始めてです。ありがたい経験させていただきました、兄上。
「あつ……」
 行為が終わった後、兄上は水を持ってこさせました、さすがの兄上も喉が渇いたようでした。
 特注の代物ではなく、薔薇水の匂いがする水ですが。ゆっくりと起き上がって、俺もそれを飲む。
 水を飲んだの久しぶりな気がする。五杯ほど飲み干すと、もう一度ベッドマットに倒れこんだ。まだ正午を過ぎたばかりの時間だが、俺はもうかなり疲れている。このままベッドで寝たい、むしろポッドでもいい。
「熱いか? ゼルデガラテア」
「はい、熱いです」

兄上のお考えなど、俺の想像の範疇外だ


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