Christmas
― ビーレウスト[男]×カレンティンシス[両性具有] ―

[帝君宮に直ぐに戻れ]

 ビーレウストはカレンティンシスからの指示通り、帝君宮へと戻った。
「勝手っていうか、らしいのか」
 ビーレウストは一週間前に帝君宮から追い出された。追い出したのは、カレンティンシス。理由も告げずに、
「貴様! 今日から暫く此処から出て行け! 近寄るな!」
 捲し立てられ、構いはしないとその場を後にして、リスカートーフォン区画にある自分の部屋に居た。
 そして今日の連絡。
 カレンティンシスの我が儘に振り回されるのも仕事のうちと、ビーレウストは帝君宮へと戻る。
「改装したのか」
 帝君宮に戻ると宮の雑事を扱っている家令から、帝君宮が改造された事を聞かされた。勿論、
「陛下が許可なさった事だろ? 俺には何の権限もねえから」
 カレンティンシス、皇帝陛下からの許可を貰う事は忘れていない。
 何処を改装したのか? 観ておこうと、家令に案内させると寝室が改良されていた。
「何で寝室に侵入孔が」
 縦に伸びている穴。
「煙突というものだそうです」
 家令の言葉を聞き、ビーレウストは、
「じゃあ、それは暖炉か」
 昔の文献を思い出し、手を叩いた。現在も薪をくべる暖炉は存在するが、煙突は存在しない。
 空調や炎の調節、煤などの除去など 《暖炉》 だけで全てが事足りる。
「はい。ですが薪をくべて火を点すのは厳禁だと」
 そこまで聞いて 《どうでもイイ》 と思ってしまったビーレウストは、家令に図書室から本を持って来るように命じ、ベッドに腰を掛けた。
 改装により備え付けられた、煉瓦制の暖炉など興味も持たず、一人で本を読んでカレンティンシスが来るのを待っていると、暖炉の上の方から音が聞こえてきた。
「ん……」
 顔を上げると窓の向こうの景色は ”開祖の時間” こと太陽が傾き、黄昏に染まり始めていた。
 本をベッドに置き、暖炉の傍に近寄ると、頭上から、
「うぉぉ!」
 聞き慣れた雄々しい叫び。
「あん?」
 言いながら、ビーレウストが立って入る事の出来るほど大きな暖炉口に身を滑らせ、煙突を仰ぎ見ると、
「ほぉああああああ!!」
「うわ! ばか!」


 カレンティンシスが降ってきた。


 カレンティンシスを無事に受け止めて、暖炉から出て 《うぉぉ! 視界が暗いぃ!》 と叫ぶ腕の中の物体に、強力な光を浴びせかけて瞬膜を剥がした後、椅子に座らせる。
「で……本日は……なんの誤用……じゃなくて御用で?」
 ビーレウストの目の前にいるカレンティンシスは、何時ものカレンティンシスではなかった。
 態度は何時もの王、そのもの。
 椅子に座り堂々と足を開いて座るその姿は、間違い無くカレンティンシス。
 ただ今日はその開いている足の間から、下着が見えているだけ。
 何故にそれ程下着が見える服、それも歴史と伝統のテルロバールノルが何時も 《成り上がり傭兵国家の色》 と侮蔑憚らない赤を着用。
「これを観て解らんのか!」
 ”解る訳ねぇだろ” 思いはしたが、王の情夫たるものそんな言葉を口に出してはいけない……のだが、
「解らねえな」
 ビーレウストなので口に出てしまった。
 カレンティンシスは立ち上がり、
「儂が貴様のミニスカートサンタクロースじゃ! ありがたく思え!」
「…………」

 ビーレウストは頭がまっ白になるという体験を初めてした。

「あ、ああ……なる程」
 まっ白になりながら、スタンダードミニスカサンタ(帽子付き)に赤いロングレザーブーツを履いて煙突から落下してきたアルカルターヴァ公爵にしてテルロバールノル王 カレンティンシス・ディセルダヴィション・ファーオン 殿下を落ちつける事にした。
 本当に落ち着きたいのは自分だが、それどころではない。
 落ちつけながら話を聞くと、
「サンタクロースというのは煙突から侵入する物だ。よって陛下に用途の説明をし、許可を頂き……」

 要約すると[ミニスカサンタ姿で情夫の寝室に乱入したいので、後宮の正配偶者宮の一つを改造させてくだされ! 陛下!]

 そんな願いに許可を出さないでください陛下……と思ったビーレウストだが、直ぐにこの儂王様の案を聞き『ビーレウストを驚かせるのか。そうかあ、驚かせてやってくれよ』と笑顔で許可を出している姿が思い浮かび、切ない気持ちになった。
 何がそれ程までに切ないのか、人間的な感情に乏しいビーレウストは解らなかったが、人間らしい感情を持っている人間であろうと意味なく切なくなるだろう。
「何故サンタクロースで……」
「ミニスカートサンタクロースじゃ!」
 ”ミニスカート付けなきゃならんのか” 絶望の底なし沼を右足が沈む前に左足を上げ駆ける気持ちで、ビーレウストは機嫌を損ねぬように語り続ける。
「ミニスカートサンタクロースな。そうミニスカートサンタクロースだが、何故俺なんかに」
「貴様、この前それに関する本を読んでいたではないか! ミニスカートサンタクロースに会いたかったのであろう!」
「……あ、ああ」
 その時ビーレウストが読んでいた本はロヴィニア王家の書庫にあった 『資本主義におけるクリスマス』 という、正式なクリスマスに関するものではない。
 エーダリロクが 『昔の実用書とか読んでみるか?』 貸してくれたもの。
 情事の後にカレンティンシスの隣で読んでいたタイトルを覚えていたらしく、
「ラティランに聞いたら、こういう格好だと」
 最も聞いてはいけない相手に聞いて用意してきた。
 ”何故あのラティランの野郎に聞くんだ?” と思ったが、そこら辺は無視して、
「って事は、俺に何かプレゼントをくれるんだよな」
 良い子からはほど遠い、三十歳近くの人殺し発狂王子は、ミニスカートが捲れてスパッツ丸出しの綺麗な国王に声をかける。
「ああ、そうじゃ!」
 だが目の前にいるミニスカートサンタクロース国王殿下は手ぶらだった。
 基本的に王子や王女は荷物を自らの手に持ち移動することなどない。国王ともなればそれ以上。
「じゃあ俺は、どこに贈り物を受け取りに向かえば良いんだ?」
 別の所に贈り物があり、それを自分が出向いて受け取るのだろうとビーレウストが話掛けると、途端にカレンティンシスは不機嫌になった。
 ”持てないほどデカイのか? 惑星とか貰っても面倒なだけなんだが”
「えっと……何くれるんだ?」
「……」
 ますます不機嫌になるカレンティンシス。
 ”贈り物をピンポイントで言わないと不機嫌になるのか? 俺、何か欲しいって言ったか?”
 閨で語った自分の言葉を必至に思い出すが、特に何も言った記憶は無かった。
 ”俺は艦隊は欲しくねえし、機動装甲と専用銃器はエーダリロクが作ってくれるし……”
 思い出そうと焦れば焦るほど、目の前の王は不機嫌になってゆく。
「儂が……」
「は? 何だ?」
 通常状態でも聴力が人より優れているビーレウストすら聞き取れないような小さな声でカレンティンシスが語り始めた。
「儂が……」
 何だろうか? と思い、急いで聴力を上げたその瞬間。

「儂がプレゼントじゃああ!」

 何時も通りのカレンティンシス大声。聴覚というか脳を揺るがすその声にビーレウストは違う意味で鼻血を出した。
 ビーレウストには良くある、脳からの出血。
 ”慣れてるから平気だがよ”

**********


「まったく、餓鬼が。興奮しおって」
 鼻血によりカレンティンシスに完全に勘違いされたが、それによりカレンティンシスの機嫌が直ったのでビーレウストは黙っておく事にした。
 自分がプレゼントと言うことは、抱けばよいのだと鼻血が止まった事を確認すると、直ぐに抱き締めてミニスカートの中に手を滑らせた。
 白いぼんぼりの付いている三角帽子や、赤の縁取りに使われている白いふわふわした物体が、陛下専用の装飾品だと気付き ”汚したら俺、処刑対象だよな。ミニスカートサンタクロースの衣装に精液付けて冷白の間は……戦死させてくれ” と思いつつ、手をかけて脱がせようとしたとき、
「うわぁぁ! 離せ! デファイノス!」
 カレンティンシスが身体を押しのけてきた。勿論カレンティンシスの力如きでは、ビーレウストは押しのけられないが ”嫌なら” と直ぐに離れた。
「き、貴様! 風呂に入ってこい!」
「いや、もう綺麗なモンだ。あんたが来るって聞いたから、待たせちゃいけないと思って身体くらい洗っておいた」
「何で貴様はそんなに用意周到なんじゃ! だが入れ!」
「あのな、何かするなら隣の部屋で待ってる。それで良いだろう?」
 恐らく何かしようとして、忘れたのだろうとビーレウストは ”どうどう” とカレンティンシスを落ち着かせて、少しの間一人っきりにさせる事にした。
 部屋を出て廊下で、
「何してんだろう……」
 中の気配を窺う。盗聴趣味などではなく、あの王をプライベートで一人にしておくと、恐ろしい事をするので注意していなくてはならないのだ。
 ”スパッツを脱いだ音だな”
 カレンティンシスはスパッツをブーツの辺りまで下げた。
 ”ポケットから何かを取り出した……ん? 薬品か?”
 音で小指程度の大きさの柔らかい物体が取り出された事は解った。
 ”一体何をしようってんだ”

『ラティランから貰った薬……』

 薬なのは解ったが、出所がラティランクレンラセオ。大急ぎで扉を開き、叫ぶ!
「待てぇ! あんた、ラティランから貰ったくす……何してんだよ!」
「いきなり入ってくるな、馬鹿者が!」
 ビーレウストが観たものは、男性器に薬を差し込もうとしている姿。
 スパッツをはき直させて話を聞くと、カレンティンシスは媚薬持参で現れた。
 当初は媚薬を使用してから煙突侵入しようと思ったのだが ”媚薬” という言葉に、腰が抜けるなど妙な想像をしてしまい、到着してからにしようと。

 カレンティンシスは媚薬を使わせたことも、使った事もない。

 何時もビーレウストの技と体力の前に意識を喪失してしまう自分を不甲斐ないと思い、贈り物になる日くらいは何時もと違う自分を、ドーピングしてでも! と考えての行為だったらしい。
「ラティランが以前、儂を使って実験していたのは貴様も知る所であろう? 儂の体質に適した薬を作るならばラティランが良いと思ってな」
「あの男を信用するな! 依頼するならエーダリロクか、カルにしろよ!」
「エーダリロク依頼したらあり得ん金額を請求されるに決まっておろうが! 貴様は知らんだろうが、あの男もロヴィニア! タダでは動かん!」
 そう言われるとそうかもな……と思ってしまうビーレウストだった。
「じゃあカルにしろよ。アイツは何でも上手くこなすから」
「恥ずかしいじゃろうが! 実弟に媚薬を依頼するなど!」

 ラティランなら良いのかよ……

 話が何時も通り平行線を辿り続ける国王と情夫。話していても何の解決にもならないだろうと、ビーレウストは薬をスキャンして、毒ではない事を確認したあとカレンティンシスに使用して押し倒した。
 服を脱がせようとしたのだが、
「ミニスカートサンタクロースの着衣を剥いだら、だだの儂じゃ! この着衣を脱がせることは許さん! スパッツ以外は許可せんぞ!」
 お願いです! ただの儂になってください! と思いながらも、悲しい事に自分の下半身が勃ってきていることに気付いてしまったビーレウストは、抱いた。
 気合いを込めて前も後ろも精液が溢れて出し、赤く充血するほどに何度も。
 媚薬を使用しているせいか、何時もより素直に喘いだカレンティンシスに、何時もより元気になった自分に自嘲しながら、
「大丈夫か」
 よれよれになったミニスカートサンタクロースの着衣をまだ纏っている、金髪の国王に声をかける。
「……」
 何とか起き上がったカレンティンシスに、小量のホットワインを差し出す。
「ありがたく頂きました」
 自分の言葉に少しばかり微笑んだカレンティンシスの横顔を観て「可愛いかもな」と思ってしまった自分に気付いたビーレウストは、否定するべきか否かを悩みつつ、
「身体洗って帰るか?」
 帰宅を促す。
 媚薬持参で煙突増築、ミニスカートサンタクロースに固持した男だが、これでも国王、それ程暇でもない。
「洗わないでいい」
 立ち上がりよろよろと、カレンティンシスは煙突に向かって歩き出した。
「ちょっと待て! そこから帰るつもりなのか!」
 内腿には容赦なく白濁が伝い、真っ直ぐに歩く事の出来ない、よれたミニスカートサンタクロースは、”強姦されて放心状態の人” にしか見えないのだが、
「当たり前じゃ! 煙突から侵入し、煙突から立ち去るまでがミニスカートサンタクロースじゃ!」
 言葉は全く放心してはいなかった。
 むしろ放心しているのは、ビーレウストの方。
「あのー無理じゃないか? 良かったら俺が……」
「何を! 貴様、少し運動神経が良いからといって儂を馬鹿にするな!」
 そう言って、煙突の内側に備え付けられている梯子に手をかけて登り始めたカレンティンシスだが、足が上がらずに登り切ることはできなかった。
「貴様が容赦なく突き上げるからじゃ!」
「はいはい、ごめんなさい。俺が悪かったです」
 そう言って部屋にあった大きな袋を取り出し、
「ここに入ってくださいな。俺がサンタになって、あなた様の弟君の所まで運ばせていただきますので」
 カレンティンシスは文句を言いながらも、その袋に入り、
「来年も期待してるからな、アルカルターヴァ公爵殿下」
「ふ、ふん! 知ったことか! お、覚えていたらな! ……ちょっとは期待しておれ!」
 幸せになりながら眠りに落ちた。

《終》

**********

「カルニスタミア、これは何?」
「兄貴じゃ」
「どう見てもこれ、リスカートーフォンの死体袋じゃん」
「手持ちがそれしかなかったそうだ」
「届けに来たのはビーレウストなんだ」
「ああ。勝手に触ると怒るだろうから、目が覚めるまではそうしておく」

 この袋の中からよれよれになったミニスカートサンタクロース実兄王が怒号とともに出て来るのは、三分後の事である。

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