PASTORAL −78

 宮殿の戻ってきたクロトハウセは、ある程度の仕事と、
「大公殿下、舐めてください」
 多くのお楽しみの最中であった。
「大公殿下。僕のも」
 全裸の美少年を侍らせる。彼等は自分で生クリームを体につけて、クロトハウセの傍に擦り寄ってくる。
 生クリームがついているのは大体、乳首やら性器やらといった所だ。彼等は生クリームを体に付けさせたり、チョコスティックを差し込んだり、お菓子で身体を飾るのはクロトハウセの遊びだと思っているが、実際半分くらいは菓子が本当に食べたいだけである。
 基本的に長い付き合いなどしないので、大体の少年達は知らないでその役割を終える。
 栄達した彼の元には、別に頼んでもいないのにご機嫌伺いよろしく少年達が頻繁に届けられ、それで思う存分遊んでいた。
 本日も少年の体にクリームを塗って、それをなぞるように舐めていると、侍従長が大急ぎで部屋を訪れた。
「何だ?」
「ゼルデガラテア大公殿下がおいでに。お通しして宜しいでしょう……」
 その時のクロトハウセの表情の変化は、見たことの無いものだった。基本的に皇子などは、事の最中に人が来てもそのままの事が多い。
 見せ付けるというのではなく、楽しみを中断してまで出迎える相手などそうはいない。そしてこれがサフォント帝であれば、軽く何かを羽織で迎える……で済んだのだが、相手はエバカイン。
 クロトハウセにとってエバカインは『清らかな兄』なので、こんな爛れた場所を見せるわけにはいかない(自覚はあるらしい)
 その為、生クリームプレイで遊んでいた少年をそのままに立ち上がると、
「良い訳がないだろう! お前ら全員もどれ! あっ! ……湯は何処だ」
 応接室で遊んでいたので、窓を開けるように命じつつ自分でも大急ぎで換気用に窓を開け放ちながら、体に付いた生クリームなのか精液なのか良く解らない物体を洗い落とす為に、どの浴室に湯が張られているか? を問うが、
「西側第二浴場に」
 応接室から一番遠い浴室だった。
「間に合わん。湯を沸かして持って来い! 急げっ!」
 言いつつクロトハウセは「菓子専門厨房」に自ら乗り込み、湯をボウルに張り全身から浴びた。
「ガウン持って来い! その間に中央第三に湯を張れ! 準備を整えておけ! それと元帥の正装もだ! 早くしろ!」
 言いながら彼は大急ぎで「敬愛してやまない、麗しい兄上様」こと、エバカインを風呂上りのような状態で出迎えた。目の前に立っていた兄のメイド服姿に

 と心中で叫んでいたが、エバカインには届かなかった。口にした所で何の事か全く解らないであろうが。
 その強力過ぎる萌えの前に、クラクラしながら浴室に向かって大急ぎで身体を洗い、髪を乾かさせながら正装をする。
「早くせんか!」
 エバカインを待たせているというだけで、クロトハウセは気が急くらしい。怒鳴りに怒鳴ったが、メイド服+赤頭巾に籐で編んだ籠を持ったエバカインの前に出ると、
「申し訳ございません! 兄上お待たせいたしました!」
 この通り、やたらと穏やかに。この為エバカインは終生、クロトハウセが「喧嘩皇子」と呼ばれる意味が解らなかった程だ。『少し喧嘩する程度なのにな……喧嘩皇子って、歩く道すがらそこにいた相手殴って歩くような人の事だよな』と。
 猫を被りまくっている弟は、その対象である清らかな兄にクルクル回ってもらって、顔を必死に引き締めながら観ていた。彼の心中は、

 スカートの膨らみ具合や光沢なんぞ、覚えているわけもなく、ただクルクルと回ってくれる兄のその可愛らしい踵、蝶のようにあどけなく舞う姿、ふわりと広がる愛くるしい赤頭巾(注:クロトハウセ視点)を前に、彼は歯を食いしばって立っていた。
 気を抜くと、その可愛らしさ倒れそうであった……らしい。エバカインが本人が聞かされれば「……大丈夫?」となる所だが、『兄上に可愛らしいと言って良いのは陛下だけ』と、勝手に思い込んでいるクロトハウセは、それを口にはしなかった。
 いきなりの訪問に心臓がバクバク言いつつ、気取られないよう必死に接するクロトハウセ。食事の誘いを受けてもらったのは良いが、テーブルの上に乗っているお菓子が良いといわれて青くなり(そこにアレとか直接突っ込ませていたので)大急ぎでそれを取り替えさせる。
 クロトハウセの元には大量のお菓子があるのだ。料理はなくても菓子は常時五千種類揃えられている。嬉しい混乱に陥っている為、『ある菓子を全て持って来い』と命じてしまう程。
 庭で兄と食事をする(彼の食事は、ほとんど菓子)クロトハウセは、とても幸せそうであった。その後、侍従長に、
「ゼルデガラテア大公殿下は、普通のお食事もなされるかと」
 その意見を受けて、普通の食事をも準備させた。気さくというか、エバカインを間違った方向で神聖視しているクロトハウセは、皇帝から頂いた時間を思う存分に堪能する。 
 仕事を終えて、愛しい弟(エバカイン)を可愛い弟(クロトハウセ)の元に迎えに来た長兄であるサフォント帝は、

 可愛い弟の耳元にそう囁いて、愛しい弟と共に去っていった。
 普通の人間なら高確率で心臓麻痺を起こす兄上の耳元での囁きだが、クロトハウセはその言葉に忠誠心を新たにする。
『このクロトハウセ、陛下と萌えポイントが同じ事、嬉しゅうございます』
 クロトハウセ、お前も帽子萌えなのか?


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