PASTORAL −58

 ただ今交戦中です。
 予想通りの時間に戦端が開いて、その直後から俺は機動装甲に乗り込んで、後方支援部隊のほうに偶に流れてくるビーム砲を迎撃ビットで相殺してます。
 ……それだけしかしておりません……。
 大体、機動装甲って開戦直後の艦隊戦じゃなくて、後から来る敵の巨大戦闘機を迎撃する兵器であって
「ミサイル来たか」
 こんな、止まったかのようなミサイルを迎撃する兵器ではないような。
 兄上が乗っていいと仰られたので開戦直後から乗ってますが、これ結構高額で最初から最後まで動かすとなると……だから、戦艦では太刀打ちできない敵巨大戦闘機を、内部から破壊する際のみの使用に留められていたんですが。確かに人的被害は減ると思う……それが狙いなのだろうな、兄上は。
『ゼルデガラテア大公殿下。ゼンガルセン艦隊の方に物資を輸送いたしますので、護衛の程お願いいたします』
「解った」
 なくなりそうな物資を運ぶ戦艦隊を警備しつつ、
『申し訳ございません、ゼルデガラテア大公殿下』
「気にしなくていい」
 航行不能となった戦艦を曳航して、後方の修理艦隊に届けたりの繰り返し。
 六時間毎に一時間の休憩を入れて、三日目。ついに敵本隊がお出ました。
「大きいなぁ……」
 メルガセテ級敵戦闘空母艦(全長約120,000km)
 言葉としては知ってたが、目の前にすると圧巻だ。
 地球的尺度でいうと「土星」ほどの大きさの戦艦が次々とお出まし。銀河の暗闇が見えなくなる程の敵巨大戦艦で埋め尽くされる。
「宇宙空間に壁とは……その通りだな」
 五百を越えた数の“これ”移動してくる。あの戦艦が現れると此方の戦艦は散開を開始する。敵の主砲の標的から逃れる為に。
 だが最近は敵も主砲を撃ってこなくなったらしい。主砲孔を解放すると、其処から機動装甲が侵入して迎撃されるのを恐れて。主砲孔から突撃するのが一番確実らしいんだが、
『ゼルデガラテア大公殿下』
「なんだ?」
『機動装甲はメルガセテ級敵戦闘空母艦が現れた時点で任務はその迎撃となります。後方は前衛から散開した戦艦に守らせますので。ご武運の程を』
「解った。後は任せた」

言ってみたものの……俺に“アレ”と戦えってのか? それもタイマンで。

 機動装甲(概ね)全長300m、メルガセテ級敵戦闘空母艦全長120,000km……皆、よく単騎であれを撃沈させるよな……さすが帝国の守護者達。
 でもまあ、後方で黙っているわけにもいかないので、前線の方へと向かって……戦闘機に混じって敵戦闘機を撃ち落してました。
 メルガセテから多数の戦闘機が発射されてくるから、それを迎撃している。
 撃っても撃っても湧いて出てくる感じだ……内部で生産しているから当然なんだが。敵本艦を叩かない限り、際限なく出てくる。けど、纏わりつかれて仕方ない。
 地味に敵戦闘機を撃ち落しながら、補給艦隊を守りつつ戦局を見守っていたら……本当は見守ってる場合じゃないんだが……見守っていたら機動装甲が出撃して最初の三十分で、最初の敵空母を撃沈。
 ゼンガルセン上級大将が落としたようで、敵空母は動力を失って内部から爆発していく。
 王子は“それ”から離脱して、次の敵空母に突撃していった。一連の動きには無駄なく、お見事だった。
 で、俺は今現在何をしているか?
 今現在も敵戦闘機を撃ってました。いや! 撃沈された敵空母から多数の戦闘機が飛来してきて、凄いんだって! まるでイナゴの大群の中にいるような。
 遠距離迎撃ビット総数500と接近戦用ディラマスターで撃ったり薙ぎ払ったり、狙わなくても当る状態。
 そうこうしているうちに、また敵空母が撃沈された。今度は兄上のようだ。
 離脱ポイントにこの敵がいたら億劫だろうな……全く問題はないかもしれないけれど、鬱陶しいと思うので兄上の離脱予測ポイントで、戦闘機を迎撃する事に。
 機動装甲のする仕事ではないのだが、兄上が次ぎの敵空母に向かう際のお役に立てればと、撃ったり薙ぎ払ったりしていたら。
『ゼルデガラテアか』
 真白で皇帝陛下の紋章が入った機動装甲が、予想より七分十一秒も早く飛び出して来ましたよ。
「陛下、敵は払っておきました。次のメルガセテに向かう際、不必要かとは思いますが援護させていただきたく」
『付いて来るが良い』
 兄上が突撃する際の援護をして、内部に入ったのを確認後その空母の隣の空母に突進しようと思ったんだが……
「敵が多くて入れない」
 そんな訳で、また敵戦闘機を撃ってました。よく観れば、味方の戦艦が隊列を組みなおして、動力を破壊され動けなくなったメルガセテに攻撃を仕掛けているというのに、
『ゼルデガラテア、離脱ポイントの掃除をしておけ』
「御意」
 俺はそれの繰り返し。兄上が敵戦闘空母の内部に居る時は、メルガセテに攻撃を仕掛けている戦艦の補佐に回ったり。
 こうやって俺は四日間に渡る『帝国防衛戦役』に初陣して、見事な記録を打ち立てたさ!
 敵戦闘機4852億1055機撃墜……ごめんなさい! 誰でも出来るじゃないか、この位。唯皆メルガセテに攻撃をするのが仕事だから叩かないわけであって。
 終わってしまったものは仕方ないし、圧勝であったので、俺の不甲斐なさなんてのはどこかに隠しておけるだろう。
 でも勝ち戦だから間違いなく俺は階級が上がるに違いない。
 仕方なくも後方部隊で少し仕事をして、ゼンガルセン上級大将の旗艦に戻ったところ……

ゼンガルセン上級大将、凄い不機嫌

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