PASTORAL −45 「ルライデ大公・デルドライダハネ王女特別編−王か王妃か王婿か」

 俺は星をみていた。
「見慣れない星図だ」
 窓から俺は新開拓惑星群を眺めている。
 イネス公爵家から帝星に向かう途中。ナーバーアムト宇宙港で現物支給(俺が持っていたネックレス)で帝星近辺まで乗せてくれる船と交渉が成立。少々大回りになるから時間はかかるが、かえって見つからなくていいだろう。この辺りには税関も関所もないからね。
 開拓惑星群のほうは、まだ「統治管理下」におかれていないので、基本的に交通税がない。だから貧乏人を乗せる旅客船とかがこちらを使う。大回りで時間はかかるが、税金がかからないのが大きいようだ。
 それでこの手の船は、燃料はともかく食料品や水のストックが少ないので、有人惑星に下りて購入して飛ぶを繰り返す。
 開拓惑星に住んでいる人達の現金収入と、または物々交換など。
「エバさん……で良いんでしたか?」
 声をかけられて振り返ると、小太りの船長が立っていた。
「はい、なんでしょう?」
「帝国軍人にそう腰を低く言われると」
 帝国軍人ってか……正確には帝国軍所属警官だった程度ですが。
「こういう喋り方なんで、気にしないでいただきたい」
「大したことじゃないんだけど、今降りる惑星は…」
 船長も人が良く、船員も三名程だが穏やかだ。非認可の船、貨物船など乗組員は大体四名。船長と航海士と整備が二名ってのが基本というか、最低限必要だ。
 この船もご他聞にもれず最低限の乗組員と……
 突然鳴り響く警報と、船内のいたる所で赤く光る回転灯……赤い回転灯が表示って事は、敵襲? どこか……地表からか? 船長はブリッジへと走っていった、あの身体からは想像もつかない速さで。
 食糧補給のために降りようとした惑星の表面から光点が此方に近付いてくる。窓から俺はそれを見ているしかない。
 それ程のミサイルじゃないだろう、この速度からいっても。だがこの船だったら直撃すれば墜落は間逃れないな。側に近付いてきたとき、そのミサイルの型番を見て取れた。
「……KGE778-1型! どんだけ古いんだよ!」
 古くってもこの船くらいは……強い衝撃はあったが、一撃はかわしたらしい。地表から……目測で撃ってるにしても腕悪いなあ。この場合は腕が悪い方がありがたいが。
 この船には俺以外の客も当然乗ってる、船の大きさよりも乗客は多い。非認可の船ってそういうモンだ。
 俺は乗組員でもないのだが、ブリッジの方へと進む。混乱している人達を押しのけて
「船長さん、ガイサンダルト銃くらいはないか? あればシャフトを開いて狙い打つ」
 あのミサイルくらいならガイサンダルト銃で消滅させられるし、既に成層圏に入っているからシャフトを開いても大丈夫だろう……が。
「ありがたい申し出ですけど、ウチの船にはそんなモンはありません。エバさん、何か御用があるんでしょ、ウチのガタきてるレーダーが次ぎ一撃を確認しちまったんで。……急降下します、もう対流圏に突入してますからシャフトから飛び出してください。帝国軍人さんならできるでしょ、貰った料金分の仕事できなくて申し訳ありませんね。お返しします」
「必要ない。余計なもの持ってると着地の際に衝撃になる、あの世への駄賃としてもっておけ」
「ありがとございます」
 俺は乗客をかき分けて、シャフトのほうへと向かった。乗船した際に船内は確認してる……職業病みたいなもんだよ、昔非認可船の密輸取締りを受け持ってたからさ。
 泣いたり喚いたり怒鳴ったり、祈ったり呆然としたりしている人達をすり抜けて、貨物室のシャッターを上げる。逃げ道があるかと勘違いした人達が来たが、説明もしないでシャフトに向かう。残念ながら俺は誰も助けられない。
「シャフト開くぞ」
 そう言って、シャフトを開け蝶番の部分を切る。ドア部分が落ちてゆく。
「どうする気なんですか、あんた」
 棚に捕まって俺に声をかけてくる人に
「飛び降りる」
「ば、ばかだろ? あんた」
 せめて、高度300mくらいまでなら……下から音が聞こえる、ミサイルの音だ。このガタのきてる機体じゃあもうかわせないな……俺は覚悟を決めて飛び降りた、船に背を向けて。
 爆音を聞きながら、爆風に押されて地表に降下する。
『上手く着地させてくれよ!』

*************

「指の骨も折れなかったな」
 上手く着地できた。俺が着地した後、少し遠くで人が潰れるような音が聞こえたが、確かめる気は無い。
「何が起きたのか解からないが、取り敢えず……人を探そう」
 周囲には全く建築物はないが、あのミサイルの弾道から考えてこの近辺に何か建物がある筈だ。
 軍刀を握って、俺は歩き出した……ところ……羊が一匹。
 多分羊。図鑑とかに載ってる羊。天然物なのか、毛を取るために改良された品種なのか……見分けられれば良いんだが。
「周辺に人とか……いる?」
 あまりにも誰も居ないので羊に尋ねてみる……意味ない事くらいは解かってるんだけど。
「ん?」
 俺の身間違いでなければ、羊の目が光った……羊って目が光るのか?
「うぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 ただ今羊に追われてます! 突然羊が追いかけてきました!! 

 いや、羊を殺す事はできるけど! 簡単だけど! 誰かの家畜だったら困るだろ? 今の時点じゃあ弁償できないし! 大事に飼っている家畜を殺害するわけには!! 捉えるのも出来るが、羊の捉え方とか知らないし間違って怪我とかさせたらダメだし、なにより生活の糧だったら困るから……だから逃げる!
「俺が何か悪い事したのかぁぁぁ! 羊さぁんん!!」
「…………(無言)」
 ああ! もう! 俺は一体何をしているんだ!(逃げている)
 男が泣いていいのは、母親が死んだ時となんだかだっていうけれど、突然羊に追いまわされるこの状況も泣いて良いと思うぞ!
 羊に追いまわされて、丘を登って飛び出したら、足元で軽く……
「てめえ、ひろったモン出しやがれ。おれは俺達のあがりだぞ」
「早く寄越せよ、この役立たず」
 どう好意的に見ても二人の悪党に囲まれている
「い、いやですよ。こ、これは落ちてきたんだから」
 学者さん風の方。
「だから俺達があの船を落としたんだから、俺達のモノなんだよ」
「あの羊がいねえうちに」
 悪党決定! そして学者さん風の飼い羊なんですね、あの羊は……と、とにかく! 着地して。
「テメエ誰だ!」
 一人殺してもう一人に話を聞くとしよう! いきなり一人を切り裂いたら、もう一人の悪党がビックリしてしまって腰を抜かして、震えてガタガタ言い出した。おまけに漏らすし……最悪だ。悪党って、自分が責めているときは強いんだけど、イザって時は普通の人より怖がりだよね。だから徒党を組むんだろうけれども。
「さっきの船に乗ってたものだ。KGE778-1型対空ミサイルでDD-5型船を撃ち落したのはお前達か」
 座り込んでる男の鼻先に切先を押し付ける。
「え……あ。ああ、うそ、だろ……」
「船は何処にある、宇宙船だ」
 この際宇宙船強奪して(犯罪です)一人で航海(犯罪です)してやる! 間に合わないだろうがっ! 陛下の挙式に問題があったら困るんだって!
「そ、それは……あっ! おい! コイツを殺せ!」
 援軍が五名ほど。数が来たので表情に余裕が。そのまま鼻に突き刺して、額の方に刀を上げる。スパンッと頭蓋骨を抜いた刀を持って、五人は……仕方ない殺すか。
 新しく来た五人は銃器を持っているから、あの学者風の男性が撃たれたら困る。
 彼に話を聞く事にしよう。
「凄い強いんですね」
「いいえ、ごく一般的ですが」
 先ずは倒した。帝星に蔓延る海千山千の悪党に比べればなんてことない。
「初めまして、私エバカインと申します。エバと呼んでください」
「初めまして、ご丁寧にありがとうございます。僕はランチャーニと言います。えっと失礼ですが先ほどアイツラに撃墜された船の乗客だったって……本当ですか」
「はい、本当です。急ぎの用があるので、此処から出立する船を紹介して欲しいのですが」

「それ、無理です」

 ランチャーニ氏から理由を聞くと、先ほどの悪党は本当に悪党で「サダルカン」という男をリーダーにしているのだという。この775星にやってきたのが半年ほど前の事。
 開拓惑星なので自警団はあるが、大量の銃器を持ってきた彼等の前には成す術がない。「サダルカン」とその一党はこの開拓惑星の住民から略奪できるモノが知れると、今度は此処に食糧を補給しに来る船を狙うようになった。こういう場所で、非認可の宇宙船だから多少いなくなっても問題にならないのを見越しての事らしい。
 来る船は墜落させて積荷を奪うし、原型が残っているような船は彼等が取り上げてしまうし……。
「そうですか……それはそうと、あの羊。ランチャーニさんの飼い羊なんですか」
「トコヤマ! 無事だったのか!」

……変わった名前だね、羊のトコヤマさん……何故“さん”付けにしてしまうのだろう

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