ALMOND GWALIOR −58
 エーダリロクは帝国宰相が応接室に入ったのを確認したあと、駆けだした。
 向かう先はビーレウストが射撃を行っているポイント。そこに向かうまでの間を無駄にするわけにはいかないと《起こした人物》に話掛ける。

− いやあ、あんたがラバティアーニを殺したかったなんて知らなかった
《口から出任せだ。驚かせてみたかっただけだ。小僧の癖に、あんな面白げのない表情をするのが悪い》
− は? いや、あんた……ねえ。そりゃ、確かに宰相面白い顔だったけどよ。あんたの発言まずくないか?
《別に良かろう。《私》 もラバティアーニも既にこの世には存在しない。今を生きている者達が幸せになれるのならば、いかように使おうが、貶められようが構わん》
− あんたは良くても、ラバティアーニはどうよ
《反抗などしないさ。ラバティアーニは 《私》 が支配した時代の両性具有。従順に 《私》 に仕えたさ。この時代にいる両性具有二体とは違うタイプだからな》
− あーそう。基本従順なタイプだよなあ。何でこの時代、よりによって扱いづらいのが二つも出てくるの
《知らん……もしかしたら 《私》 と バオフォウラーが混じった事によって……》
− ビシュミエラって扱い辛いタイプだったのか?
《エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル、少なくともお前の ”姉” ガゼロダイスよりははるかに素直で可愛らしかった。可愛らしかったから助けたという事もある。バオフォウラーがガゼロダイスのようだったら 《私》 は、あれの一族と同じ運命を辿らせた。誰が育てるものか》
− ごめんな。《銀狂陛下》 も引く程に性格悪くて
《それにしてもエーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル、お前も無茶なこと考える男だ。久しぶりに呼び出されて、頭の中にある依頼書を読めと言われて読んでいるが……これは ”無謀” の部類にはいる。それ以外には分類のしようがない》
− ゆっくり読んでくれや。あんたが存在しなけりゃあ、この事案は進まない。なんとしても押し通して、俺の代で確立させる。文句はないな
《全面的に協力しよう……エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル》
− なんだ?
《エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル、確かめて欲しい事がある》
− 何を確かめる?
《”第五の男” に会いに行く》
− その必要性は俺も感じている
《それともう一つ。 ”開き立ち入る” 《私》 を久しぶりに ”神” と対面させろ》
− …………冗談……俺に神殿に入れってのかよ! シャロセルテ!
《エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル。良く聞け》
− 聞いてるって
《お前の兄であるヒドリクの傍系王は、人に暗示をかける事ができるな》
− ああ。それほど強くはないが
《二代続けてヒドリク傍系王の一族を片親に持っているのだから、ヒドリクの末王の母、先代がその力を持っていたとしてもおかしくはなかろう》
− ……っ! 待てよ……
《エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル、私は以前ヒドリクの末王の中に ”先代ディブレシアの暗示” を見た》
− その話、ゆっくりと聞かせて貰う

「ビーレウスト、どうだ? その武器」
 

 ビーレウストは射撃の姿勢が美しい男と言われている。剣などを使った直接攻撃が美しいと言われるのは多いが、銃を構えた姿が此処まで美しい男は珍しいと、リスカートーフォンで言われるほど、特異な美しさを誇る。
 その美しさの中でも特にエーダリロクが作った銃を構えている姿は、特筆するべき美しさを持つ。

 細長い銃身を持つ銃で人殺すために生まれてきたような王子

 ビーレウスト本人は当然自分が射撃している姿など見えない。映像を見ることもあるが、別に何も感じない。だがエーダリロクの銃を最も美しく魅せることが出来るという事実がとても誇らしく、嬉しく、ビーレウストはエーダリロクの作った銃だけを使う。

「何時もながら良い獲物だ」
「いやあ、そう言ってもらえると俺としても作り甲斐があるってもんだ」
「これで最後の一人。おしまい! やったぁ! データは後で持って行くからな」
 エーダリロクはその言葉に吹き抜けから見下ろすと、そこには生きている者が残っていないことは、容易に判断できた。
「おう」
「よし、解った」
「そっちも完全に終了したようだな」
「ビーレウスト、不必要だろうけど一応帝国宰相閣下の護衛してやれよ」
 銃をケースにしまっているビーレウストの鼻先に、発動した書類を見せてやる。
「あの馬鹿強い帝国宰相を護衛なんざ、すげー無意味っぽいが……どうやら《国璽》持ってきてるみたいだしな。念のために護衛しておく。エーダリロク、手前は?」
 《国璽》 持ってきたのかよ……と笑いながらビーレウストは、ケースを封印し立ち上がった。
「俺はザウディンダル達を護衛して戻る。出来れば王主催のパーティーには出たくないからさ」
「ま、頑張れ。じゃあ、帝国宰相サマと《国璽》をお守りさせていただきますかい」
 じゃあな! と中庭に落下していったビーレウストに、ヒラヒラと手を振った後、
「さて、俺は ”皇帝陛下の所有物である両性具有” を無事に帝星まで送り届けるとしますか」
 エーダリロクは再び応接室へと駆けだした。


− 神殿か……覗くのに、手間がかかるな。神殿の警備は皇君が受け持っているから、見せてくれない事は無いだろうが
《オリヴィアストルと言ったか?》
− そう。あの人を【覗いて】みてくれないか? 何か取引材料になる物があるかも知れねえからよ
《断る》
− 何で?
《エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル、お前も知っているだろうが。”今” 皇君と呼ばれている男が【あれ】であることを》
− 確かに知ってるけどよ……駄目か?
《危険過ぎる。【あれ】は覗いてはならない生物だ》
− そりゃそうだろうけどさ。一回くらいは?
《あのな……他の【あれ】を覗く事はしないと言うのなら、一度は覗いてやろう》
− え? 他に生きている【あれ】が存在するのか? だって、皇君と死んだ帝君以外、今の帝国にはいないって聞いたぜ。だから、俺はそれで帝国騎士の発生率を計算して……サンプルになるのがあるのか?
《《私》 が見た所では ”この男” は【あれ】だ》


エーダリロクの頭の中に【あれ】と呼ばれる男性が現れた。エーダリロクもよく知っている人物で、この男がシャロセルテの言う【あれ】であっても、全くおかしくはなかった


− …………【あれ】なのか?
《完全に近い。《私》 の言葉、信じられないのか?》
− いや、覗いた事ないだろう? それなのに解るのか?
《解る。独特の匂いがある。かなり強い、独特な【あれ】の匂いだ》
− …………
《匂い程度では信用材料にはならんか。ではエーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエルよ、少し考えてみるが良い》
− どう考えりゃ良いんだ?
《マルティルディの末王とディルレダバルト=セバインの末王は、帝国軍事権を欲するが【あれ】である男が就いている地位は欲しがらんだろ。マルティルディの末王は皇帝の座を狙っているのだ【あれ】の地位を欲しがっても可笑しくはあるまい? むしろ欲しがらない方が可笑しいではないか》
− ……
《ディルレダバルト=セバインの末王も同じだ。マルティルディの末王は危険分子だが、ディルレダバルト=セバインの末王は皇帝を殺す事には興味はない。精神感応が開通しているお前の兄ヒドリク傍系王は、そのように言っていたそうだな。力を誇示するリスカートーフォンが甘んじている理由はあの男が【あれ】であるからに他ならない》
− ……
《エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル、皆がお前に影ながら従う理由があるのと同じく、二名の末王は【あれ】である男に従っている。そして、あの男【あれ】である故に ”実験体”になれなかったのだろう。【あれ】である以上、その実験には携われまい》
− 確かに、そうだ。もしかして、あの人が……なのは
《その通り。あの男、お前の持っている情報では ”地獄” に属する部類だ》
− そうか。今は信じておく、証拠をあとでくれよ
《《私》も調べてみたいと思っている》
− あの人は後で調べるとして、皇君はそんなに強いのか?
《見ていない故に正確な強さは言えないが、主家の当主たるマルティルディの末王よりは強かろう》
− 強いとは思ってたけど、そんなに強いのか!
《マルティルディの末王の正確な強さは知らんが、皇君オリヴィアストルの強さに攻め倦ねている。《私》であるナイトオリバルドの強さも恐れているが、それを護る後宮の主・皇君をかなり警戒している》
− そうか……でも、ラティランクレンラセオのヤツはどうやって皇君の強さを測ったんだ?
《マルティルディの末王は皇君オリヴィアストルを殺害しようとして、失敗しているのではないか?》
− ……
《マルティルディの末王にとって ”皇君オリヴィアストル” という男は 《私》 であるナイトオリバルド以上に邪魔な存在だ。《私》であるナイトオリバルドは退位させる事で排除できるが ”皇君オリヴィアストル” は殺す以外では排除できない。簒奪を狙う場合、ナイトオリバルドよりも先に皇君オリヴィアストルを殺さねばなるまい。それをしていないとは、とても思えないから……多分、強すぎて殺せないのであろう》
− すっかり忘れてたぜ。皇君はヤシャルと弟のラロデーヌの次に皇位継承権を持つ男だったな! ラティランは即位の際に皇位継承権は破棄したが、皇君は皇帝の夫になっただけで、ケシュマリスタ王家が持つ皇位継承権を失っちゃあいないんだもんな! 陛下に何かあったら、帝国宰相側はヤシャルと弟のラロデーヌを処分して皇君を立てる可能性もあるんだな

《そうだ。現時点で暫定皇太子が殺害されてしまえば、現皇帝の父が暫定皇太子という奇妙な形になる。マルティルディの末王は息子を疎んじているが、殺害していない。その理由は叔父皇君の持つ皇位継承権にあるのだろう》

「どこまで複雑なんだよ……」

 エーダリロクは呟きながら、応接室のドアをノックして移動を命じた。

「帰るぞ!」


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