ALMOND GWALIOR −276
 エヴェドリットは戦闘以外は面倒を嫌うが、同時に非常に負けず嫌いでもあった。テルロバールノルの頑固さと混同されそうだが、後者テルロバールノルは自分自身になによりも頑固である。それに対しエヴェドリットの負けず嫌いは競争者が存在して初めて発生する気持ちであり、自分自身に対しては、まったくと言えるくらいに発生しない。
 だが競争者が存在した場合、テルロバールノルの頑固さに匹敵するほどに、彼らは負けず嫌いが発生する。
 やせ我慢の域に達したとしても、彼らは負けず嫌いであり目を背けない。

―― 誰か見るの止めようって言えよ。我は王として言えぬがな
―― 誰かが静止を叫んだら、手元の操作パネルの停止ボタンを押してやる。押してやるから言え
―― サドと言われて二十余年。……見るのを止めようとは言えないなあ。誰か言え
―― 見るの止めようって言うのも面倒くせえし。最後まで見ないと格好悪ぃし、滅多に王族の仕事しねえから、これくらいは。うわー

 最後の心の叫びはビーレウストで「格好悪ぃ」はエーダリロクに対しての感情。虐殺を好む一族が「たかが」この程度で脱落したなど、恥ずかしくて言えないのだ。そこは嘘をついて誤魔化せば良さそうだが、相手は虚偽の達人。見抜く能力にも長けている。
 ザセリアバは詐欺脱税虚偽王と精神感応しているので、ビーレウスト以上に誤魔化しがきかない。よって自分ではなく誰かが、できることなら暴れて視聴を中止させられた方向へと持って行きたがっていた。
 シベルハムはというと、キャッセルと後日話をする際に、見ていないとビーレウストと同じく格好が付かないということで。
 男というものは些細なことに拘るものである。
 同じく格好を気にしているのがアシュレート。友人のカルニスタミアは絶対に最後まで目を逸らさずに見ているだろうと思えば、ここで引き下がるわけにはいかない。

 それらの理由よりも、もっと大きなものは、四人とも「他の三人」に負けたくない。その一心で画面を見続けていた。

 拘束していたベルトを脚の肉ごと引き裂き、血しぶきを浴びながらデウデシオンは、薬で狂ったように笑い、体を痙攣のように震わせているラティランクレンラセオのベッドに乗り、同じく薬の力で勃起した男性器を取り出す。
「でかい……な」
 ザセリアバは操作パネルに手を伸ばし、指で触れる。
 冷静な機械は”もの”の大きさも、細かく表示してくれる。
「ディブレシア帝が寝所に呼んだくらいだから、それなりに立派だろうとは思っていたが」
「キャッセルが言うには、兄弟の中でも一、二を争うそうだ」
「誰と争ってるかは聞かねえが、でもカルよりは若干……」
 女性にとっては大きければいいというものではないが、同性からすると自分より大きい相手には敗北を感じる者もいる。
 四人が自分と比べようとしないのは、決して礼儀や良心から出たものではない。若干負けているのだ。だがそれについて四人は決して認めない。

 必要のない情報だが、この四人のなかで最も大きいのはアシュレートである――それに触れると虐殺に至る殺戮となるので、触れないのが吉である。

 無理矢理押し入ることが出来るほど硬度を持ったそれに、デウデシオンは”なにか”を被せた。
「なんだ?」
「コンドームというものらしい。大昔の避妊具兼性病予防用の器具だそうだ」
 デウデシオンの意図が読めないまま、四人はラティランクレンラセオの笑い声だけが聞こえる画面を見続ける。
 傷口は閉じたがまだ赤い肉が盛り上がっている状態の脚を肩に乗せて、その脚を折るかのように抱えてデウデシオンは内部に侵入した。
 乱暴な抽挿が繰り返される。
『ぎゃははははは! ぎぅぎゃ……ぎゃあははは!』
 デウデシオンは無言で、ラティランクレンラセオはおかしな笑い声を上げ続ける。四人の人殺しの申し子たちの意識が遠退きかけたころ、抽挿が一層激しくなりデウデシオンの体が止まった。
「出たか?」
「だろうな」
「ここで終わりか?」
「なわけ、ねえだろ」
「分かっちゃいるけどよ、ビーレウスト」
「分かってるなら言うなよ、シベルハム」
 内心としては「終われ、終われ。おーわーれー」と思っているが、四人とも顔色を変えず、声に怯えを滲ませることもなく拷問を見続ける。
 画面ではまさに”ずるり”とラティランクレンラセオの穴から硬度を失った性器を引き抜くデウデシオン。
 そして大量の精液が貯まったコンドームを外し、
「うげっ! 飲んだ」
「げほっ」
「なにして? ええ」
 自分の精液を口に含んだ。喉仏が上下していないので、飲み下してはいない。
「結構精液残ってんな」
 ベッドに無造作に置かれたコンドームには、まだ精液が残っていた。
 デウデシオンはベッドから降り、映像機器がラティランクレンラセオの顔に焦点をあてる。そしてデウデシオンはラティランクレンラセオの笑い続けている両口の端に指をつっこみ開いて口付けた。
 同時にラティランクレンラセオの鼻穴と目、そして口の端から溢れ出す精液。
『ごぇっ……げっ……ぎぇひゃやや。きしゃ……ぶえええ……』
 精液を吹きだし、目から涙のように長しながら笑うラティランクレンラセオ。ちなみにカレンティンシスが脱落したのはこの場面である。
 デウデシオンは残りの精液を再び口に含むと、今度は鼻に食いつきそこから流し込んだ。笑っている口から噴き出す精液。
 これ以上ひどいシーンなど、無数に見たことのある四人なのだが、デウデシオンとラティランクレンラセオというのが辛かった。
 正直なところ、ラティランクレンラセオよりも自分たちがデウデシオンに拷問されている気分であった――
 デウデシオンの拷問はさらに続く。
 今度はラティランクレンラセオの性器をつかみ扱き、途中でコンドームを被せてから吐精させ、それをデウデシオンはまた口に含む。
「帝国宰相よりは量少ないんだな」
 デウデシオンは一回で飲みきった。
「薬の効果かも知れんが」
 デウデシオンは先程本人が服用した薬をも口に投入し、先程と同じようにラティランクレンラセオの口に流し込んだ。笑い続けていたために、精液を誤飲しひどく噎せる。
 上に向かって吐き出し、それによりラティランクレンラセオの顔は精液まみれ。白く透き通ったような肌が、濁った体液に染められる。
 性機能が高まったラティランクレンラセオ。
『ぎゃはははは! いだ……だだ! ぎゃはははははは! だしゃせぎゃああああ』
 昂ぶったそれをデウデシオンは使ったコンドームで根もとを縛り、吐き出せない苦しみを与える。
 天をつくようにそそり立ったそれ。
 そしてデウデシオンがまたがった。
「……はいったか」
「……はいってんな」
『やめひゃひゃひゃ! でいごぎゅ……ぎゃあああああああ!』
 ラティランクレンラセオの上で激しく動くデウデシオン。
 吐精を封じられた上で与えられる快感。
「気持ちは……いいんだろうな」
「まあ。男は刺激を与えられたら抗えないもんだからな」
 拷問として掘られるのと掘るの、どちらがより屈辱的か? 
 それは人によって違うので、正しい答えはないが ―― 拷問という時点で、全てが間違っているのだが、それを除外して ―― 四人ともラティランクレンラセオの性格からすると”帝国宰相で感じて”しまうほうが、より屈辱的であると考えた。
 事実、後ろを貫かれていた時よりもデウデシオンの体で快感を感じている今のほうが、表情に悔しさが滲んでいる……
『びゃぎゃひゃひゃひゃひゃ! ……うっあ……ひゃはははははは! きゃーあ! ははははは』
 ……かどうかまでははっきりとは解らないが、全員そのように感じた。

―― 尻貫かれるのはいいが、帝国宰相の尻とか……むり

 四人の心は完全に一致していた。殺戮以外のことで、考えが一致するのは非常に珍しいことであるが、彼らはそのことを知らない。
 誰が最も激しく拷問されているのか? 問い質したくなる映像は更にどうしようもない陰惨さを増す。
 薬を大量に飲んだからなのか? それとも後ろで感じているのか? デウデシオンの性器も腹につかんばかりにそそり立つ。
 デウデシオンがラティランクレンラセオで感じたなどと、思いたくはない四人は、薬の頑張りに期待しながら、その有様を見つめ続けた。

 生きの良かったディストヴィエルドの生腸詰めも、表面がかさつき動きが鈍くなる。

 デウデシオンはラティランクレンラセオの根もとを縛っていたコンドームを引きちぎり、
『ぐごぎゃあああ! ぎゅああああ!』
 達した時の声とは思えない叫びを上げ、ラティランクレンラセオが精液を放出した。
 拷問映像に慣れている彼ら、特にシベルハムなどは、このような映像を見ていると、自分の性器も熱を持つのだが、現在、己の男性器が元気な者は一人もいない。
 デウデシオンは引き抜き、そしてラティランクレンラセオの右目を刳り貫きそこに性器を無理矢理突っ込む。
 眼窩よりも大きな性器であったので、眼窩周辺の骨を拳でたたき割り押し込んだ ――
「なんか、ほっとするな。アシュレート」
 ザセリアバが笑顔になり、
「ああ。そうだな、ザセリアバ」
 アシュレートも同意する。
「普通の拷問が一番だ」
 シベルハムも穏やかな表情を浮かべ、
「あー腹減った」
 ビーレウストが瀕死の生腸詰めを食いちぎる。
 四人が ―― 強姦よりも拷問のほうが落ち着くな。やっぱ強姦は向かないなあ。強姦なんてするもんじゃないなあ。拷問はいいけど ―― と、エヴェドリットらしいことを思い浮かべながら、眼窩に射精したデウデシオンを優しく見守る。
 このまま拷問色を強めてくれることを彼らは願ったのだが……

**********


「お昼ご飯、美味しかったですね」
「そうだな、ロガ」
「ナイトオリバルド様」
「なんだ? ロガ」
「瘡蓋できました。剥がしてみますか?」
 食後のコーヒータイム、ロガが手袋を脱ぎシュスタークに手の甲を見せていた。
「……こ、これが瘡蓋。剥がすってどうやって?」
「こんな感じで、爪を立てて」
「痛くないのか?」
「平気ですよ。でもラティランクレンラセオさんって不思議な方ですね。瘡蓋なんてナイトオリバルド様と同じで見ることないでしょうに」
「まあな。”瘡蓋を見ると剥がさずにはいられない”は……たしかに不思議だな。今は何をしているのだろうな、ラティランクレンラセオは」

**********


 デウデシオンが画面からしばし消え、白濁に汚され笑い続けているラティランクレンラセオだけが映し出されていた。
 戻って来たデウデシオンは篭を持っており、まずは針の長い注射器を取り出し、左目から脳まで突き刺し、オリヴィエル(笑い薬)を大量に投与した。
 首に繋がっていた管は既に抜け落ちている。
 ラティランクレンラセオの笑い声が激しいものになる中、デウデシオンは先程のコンドームと同じく四人が見たことがないものを取り出した。
「おろし☆金だそうだ。食材などをすり下ろす時に使われていたものらしい。地球歴末期には使われなくなっていたと書かれている」
 どこかの誰かが ―― は☆り☆せ☆んを復活させることはできなかったのですが、これは大丈夫! ―― 復元させた、昔懐かしアイテムである。
 地球時代と違うのは使用されている金属がとても強固なこと。
「すり下ろすって……なにを?」 
 それは彼らの体をもすり下ろせることができる強度を誇る ―― 四人は想像し、自分たちの胯間にそっと手を乗せた。痛みに強い男たちだが、雄の本能がそうさせるのだ。
 だが彼らの想像は外れた。
 デウデシオンはおろし金を持ったまま、スプレー缶を取り出し、自分の袖に噛みつき引きちぎった。服の下から現れた逞しい腕にスプレーをかける。ムース状のものが覆っている腕におろし金を当てて腕の皮をすり下ろす。
 そして現れたのは「瘡蓋」
 ラティランクレンラセオが「見ると剥がさずにはいられない」と皇帝シュスタークにまで語った”それ”である。
 彼らの体は瘡蓋などできないので、特殊な液体を塗って傷つける必要があるのだ。そこまでして瘡蓋を作るものは、ほとんど存在しないが、調合することは可能。
 デウデシオンは己の瘡蓋に人差し指をかけて、剥がしはじめる。
『これが欲しいのか』
 いままで軽い呻き声を漏らすだけであった帝国宰相が、初めて話しかける。台詞はそれなりだが、実際は瘡蓋。
 己の身をすり下ろして与える苦痛。そして目の前で剥がされ、精液で汚れた顔に落ちてゆく瘡蓋――
『かしゃぶ! ぎゃしゃぶだあああ! はぎゃさせ! させろううぅぅ! はがさせろぉぉぉぉ!』
 原液を脳に追加投与されたラティランクレンラセオが体を震わせながら、意味のある怨嗟を吐き出した。
「喋った?!」
「あの量を投与されて喋るとか! おかしいだろ」
「なんで喋れるんだよ!」
『かさぶたああああ! かさぶたー! はがさせろおぅ!』
 デウデシオンは冷たい眼差しで見下したまま、己の腕の瘡蓋を容赦無く引き剥がす。
『お前になんぞ、くれてやるものか』
 そう言いデウデシオンは今度はラティランクレンラセオの太股に瘡蓋を作る。剥がしたい一心でラティランクレンラセオは上半身を拘束しているベルトを引きちぎるも「撮影枠外」から現れた腕に押さえ付けられ動くことができなくなった。
『かさぶたああぁぁぁぁ! はがさせろおぉぉぉ! はなぜぇぇぇ!』
「団長だな」
 ラティランクレンラセオを押さえ付けられるとなると、おのずと限られてくる。その中でデウデシオンの復讐に付き合う者と言えばタバイ以外いない。
「だな……可哀相に」
 団長の胃がまた壊れたのかと憐れに思いながらアシュレートは、団長とその家族に僅かばかりだが同情した。目の前で拷問されている王と、拷問している帝国宰相にはなにも思うことはなかったが。


novels' index next back home
Copyright © Teduka Romeo. All rights reserved.