ALMOND GWALIOR −275
 先天的に技巧が優れているザウディンダルと、後天的に技工を磨いたキュラティンセオイランサ。この二人に鍛えられた優秀な王子ことカルニスタミアは、全力で兄の意識を飛ばすために努力することなく、最中に頸動脈を”きゅっ”と締め、まるで達し意識を飛ばしたかのように気を失わせた。
「ふー」
 両性具有とは思えない桁外れの不器用さに、自分が兄のことをずっと「男性」だと思っていたのは仕方のないことだと ―― 言い訳ではなく、後にビーレウストも同意するほどに、カレンティンシスは下手だった。
 なにがどのように下手なのか? と問われると、
「微動だにしないでくれていたほうが抱きやすい」
 積極性が裏目に出てひどいことになる状態。
「それが兄貴らしいと言えば、兄貴らしいのじゃが……」
 これからビーレウストに開発してもらい、少しはマシになるのだろうか? ―― カレンティンシスを抱き上げて、体を洗う。事後だというのに色気皆無な体を洗いながら、
「いや、待て……呆れられて関係解消されたら……どうしようもねえか」
 不安を覚えた。
 ビーレウストはやや面倒くさがりなところがある。両性具有をわざわざ仕込むような性格とは到底思えない。あまりに下手過ぎたら関係解消ということもあり得る。
「そっちに関しても考慮しておくか……しかし、黙っておれば先程よりはましだな」
 体を洗い流し浴室を出ると、プネモスが控えていた。
「後は任せたぞ」
「はい」
 カレンティンシスを預け、カルニスタミアは自分の体を洗うために浴室へと戻る。オリーブの石鹸を泡立てながら、
「はあ……」
―― 兄貴は両性具有としては失敗作じゃったのだろうなあ。喜ばしいことなのかも知れぬが……
 カルニスタミアは『ザロナティオンがカレンティンシスを見た時に感じた』寂寥感に近いものを覚えながら体を洗った。
 普通の両性具有好きにショックを与える、それがカレンティンシス。

 唯一そうならないのは、現皇帝シュスタークのみ。彼は普通の両性具有も好きだが、カレンティンシスのような両性具有も容易に認めることができる。

 体を流し着換えてから、カルニスタミアはカレンティンシスが休んでいる部屋へと向かった。
「プネモス」
 暗い場所が苦手なカレンティンシスなので、眠っている時も室内は明るい。天蓋から降りているドレープを作っている半透明な布は少々光を遮る仕組みとなっている。
「カルニスタミア殿下」
「兄貴は寝ておるか」
「はい殿下」
 カルニスタミアはベッドに近付き、布越しに眠っている兄の顔を眺める。
「王が帝星において、ビーレウストを愛人にすることに関して聞いたか?」
「聞きました」
 テルロバールノル王家は他王家を一段どころか、五段も十段も低く見ている。他王家も自分たちが低く見られることは慣れている。
 もちろん見下されるのは慣れていても気分は悪い。だが、暗黒時代を経て尚、直系であるテルロバールノル王家に表だってなにかを言うことはない。
「腹立たしく思うこともあろうが耐えろよ。あれでも王子だ、最低限の身分は兼ね備えておる」
 テルロバールノル王家と共にあるローグ公爵家も、直系を途絶えさせてはいない。
 その当主からみると、現在の王家は取るに足らない――
「はい」
 プネモスの返事は従順ではあったが、表情は不満を露わにしていた。それとカルニスタミアにカレンティンシスの側にいて欲しいと願う眼差し同時に向けられた。
「両性具有は近親者を好むが、兄貴は両性具有ではない。そうじゃろう?」
 カレンティンシスの眠るベッドを包み込んでいる布を腕で避け、カルニスタミアは少しばかり身を乗り出し額に親愛のキスをする。
「儂のような愚鈍なものには分かりかねますな」
 性的な感情で見ることはできないが、家族としての情はある。一時期は失っていたのだが、全てを知り、取り戻すことができた。
「両性具有の王などテルロバールノル王家にはおらぬ。兄貴は兄貴じゃ。父の策はもはや古びて使い物にならぬ。新しき策は儂が作り、死ぬことなく完遂する。それまで任せたぞ」
 プネモスは重責から放たれ、やや疲れたように笑みを零す。
「儂は古びた者ゆえ、新しい者には膝はつけませんな」
 カレンティンシスが助かることは嬉しいが、自分が生き延びることは望んでいなかった。カレンティンシスを残し、この世を去る。それが彼の望みであり、
「要らぬよ。ではな」
 カルニスタミアは”望みは叶えてやる”と言い残し、映像を停止させたままの部屋へと戻る。酒を持ってくるように命じ、自らのウィスキーをグラスに注ぎ、
「見たくはないが、王族の務めとして最後まで見るとするか」
 グラスに口をつけながら、再生を開始した。

**********


 どの王家も拷問にはある程度の耐性はあるが、
「めんどくせえな」
「お前は面倒なことばかりだろうが、ビーレウスト」
「言うなよ、アシュレート」
 エヴェドリット王家はその中でも群を抜く。そんなもの、群を抜いた所で何の意味があるのか? だが、ローグ公爵家当主プネモスも、それだけは認めている。
「帝国宰相が拷問に長けているなど、キャッセルから聞いたことはないがな」
「出来んわけじゃねえだろ、シベルハム」
「それはそうだが。飯食いながら見るか? 王。ディストヴィエルドの生腸詰めがアイバスから届いたんだ」
 生腸詰めとは読んで字の如く、まだ生きている腸を洗い、中に刻んだ種十種類の香料をふんだんに混ぜた生挽肉を詰めた、非常に生々しい一品。腸はまだ元気でザベゲルンの触手のように”ぐるんぐん”と動き回っており、表面は滑っているのだがそれもまた味。―― リスカートーフォン宮廷料理の一品であり、他王家には非常に評判が悪い。
「あの野郎の腸詰めか。拷問すんならガーベオルロドとアイバスがタッグ組んだほうが良くねえか?」
「そんなもん怖くて見られねえだろ、ザセリアバ」
「ザセリアバに同意する。ビーレウストは炭酸飲料でいいか?」
「いいぜ、アシュレート」

 帝星に居る四人のエヴェドリット成人王族たちは、そう言いながら拷問映像を見る準備を整えた。
 画面に対して正面に大きなソファーを置き、目の前のテーブルに生腸詰めと、酒と飲料水を置く。
 行儀悪くても咎められることのない王家なので、飲み物はすべて瓶に直接口をつけて飲み、生腸詰めは各自握って噛み千切る。
 各自飲み物を手にし、アシュレートが再生を押した。
「……もう一回見せてみろ、アシュレート」
 開始早々画面に現れた「アシュ=アリラシュ顔」
 言われた通り、アシュレートは手元の操作機で言われた画面を映し出す。

 それは良い笑顔で笑っているハイネルズ☆。そして後ろに同じくアシュ=アリラシュ顔の幼児が『ハセティリアン秘密映像会社(かぶ)』の看板を持ち笑っている、極めて危険な映像が現れた。朗らかに笑えば笑う程、不吉さを感じさせる。それがアシュ=アリラシュ顔である。

「アシュレート。あいつはお前の手に負えないと思うぞ」
 訳の解らないことを(きょしんへい☆なぎはらりるれろう!)叫びながら、宇宙空間に飛び出し飛びかかってきたハイネルズ。
 強くはないのだが、性格が非常に「あ☆れ」で、僭主を皇王族として迎える際に「”あれ”は帝国宰相側でいいだろ」とザセリアバが非常に消極的であった”あれ”ことハイネルズ。
「だが強いからなあ」
「強いのは……まあ、認めるわ」

 拷問映像に名状しがたい一抹の不安を感じながらも、彼らは続きを見ることにした。

 画面に映し出されたのは笑い続けているラティランクレンラセオの顔のアップ。笑い声もしっかりと入っている。
「下げられねえタイプか」
「そのようだ」
 今回の映像は、視聴側が音を調節する事は出来ない作りになっていた。
「早送りもなしだ」
「そーかよ」
 停止と巻き戻しは可能だが、早送りと音声調節は不可。
 仕方ないなと四人は煩いラティランクレンラセオの笑い声を聞きながら、映像を眺める。
 ラティランクレンラセオの顔のアップが徐々に引き、上半身が映し出された。ベッドから落ちないように、しっかりと拘束されており、首には管が入っている。アシュレートが手元の画面で管に触れると、目の前の画面に説明が現れる。
 その管は笑い薬の点滴用。
「常人なら死ぬ速度で投与しているらしい」
「笑い声、でけえなあ」

『ぎゅひゃひゃひゃひゃはあ! きしゃああ、なにをしゃぎゃはははははは!』

 黙っていると作り物めいているラティランクレンラセオの顔は……笑っていても作り物めいていた。ただし方向性はまったく違う”作り物”である。
 映像は更に引き、ついに全体が映し出されるた。
「おい! 履いてねえぞ!」
 ラティランクレンラセオの下半身は剥き出し。いつもは隠されている太股の白くきめ細やかな肌。膝と足首は上半身と同じく太いベルトで固定されている。
―― 一生隠しておけよ! 太股とソレ晒すな!
 ザセリアバは顔を引きつらせながら毒づいた。
 四人とも帝国の表も裏も見た成人なので、この先「強姦」になることくらいは分かっていた。笑っているラティランクレンラセオが強姦される―― ”する”やつも大変だなあ ―― 四人の共通した認識であった。
 顔や体はさすが美のケシュマリスタの王。文句なく美しいのだが、
「強姦しろって命じたらするか? シベルハム」
「王が命じたらするが、自分から好んでやりたいとは思わんな」
 サド伯爵ことシベルハムの琴線に触れない体であった。この場にいる他の三人の心にも触れない。特に女好きだが男性とも肉体関係を持ったことのあるビーレウストですら、

『ぎゅははははは! げひょああああぎゃはああ! う゛ぃごああがあぎゃべっ……ぎゃははははははは!』
―― キュラより綺麗かもしんねーけど、なんか駄目だな。立たないとかいうんじゃなくてよ

 全力で拒否したくなるほどに、ラティランクレンラセオの体には男性を魅惑する物がなかった。なくて「普通」とも言えるのだが、そこは帝国で最も美しく、初代皇帝の心を奪った男性型両性具有が始祖の家。それらの色気がないのは……
『べひゃやや! うっひゃやや! う゛ぇふぉぅ! でいぎょぎゅ、さいしょ! きしゃ!』
「もしかして今、帝国宰相って言った?」
 それについて考えるよりも先に、ラティランクレンラセオの不穏な笑い叫びに四人とも身を乗り出す。
 撮影機が揺れ目つきの悪いデウデシオンの顔がアップで現れる。
 無言のまましばし睨む。そして画面に手のひらが現れ、そこにカプセルが大量に盛られる。かつてエダ公爵を抱いていた時に使用していた、強制的に勃起させる薬。
 それを大量に口に含み飲み下し……
『ぶえっ! ごふっ……うえっ』
 水も使わずに大量に嚥下しようとしたので、デウデシオンは噎せ、口から大量のカプセルを吐き出した。
 かなり激しく、相当苦しそうに。結い上げられている銀髪が大きく揺れ、苦しさを物語る。
 そこで止めればいいのに、また薬を大量に手に盛り上げて、口へと放り込み――
『げはっ! うげ……』
『ぎゃひゃややぎゃああ! ぎひゃやややや、わやひゃひゃひゃひゃひゃ!』
 やはり噎せた。
 すると再び撮影機材が揺れ、デウデシオンに液体が差し出される。
「ハセティリアンだろうな」
「だろうな」
 撮影しているデ=ディキウレが、薬を飲むために渡したのは、
『…………酢か?』
 米酢であった。

―― なんで……酢

 見ているエヴェドリット勢の困惑を他所に、画面では跳ねるように全身で笑っているラティランクレンラセオの元へとデウデシオンが近付き、剣を抜いて太股に突き刺す。骨に届くほど突き刺した剣を、足首のほうへと移動させた。
 血が噴き出し骨が露わになりベルトが切れる音が笑い声に重なる。

―― 強姦じゃなくて、このまま普通に切り裂いて終われ! 強姦すんな帝国宰相! 切り裂け、切り裂け! ばっさりばっさり、切り裂けよ! 肉がぶつかる音なんていらねえよ!

 彼らエヴェドリットには倫理観などなく、弱肉強食を尊重するので、これらの行為も珍しくはないのだが、出来ることならば避けたいと ―― 彼らは危険を察知したのだが、危険にむかって突き進めと命じる本能に従い、内なる叫びを抑え込み画面と対峙し続けた。


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