ALMOND GWALIOR −256
 怒り狂った女性に対し意見を述べるのは、もっと叱ってくださいと言っているようなものである。 ―― 弟の妻を相手にして、そのことを知ったデウデシオンは、経験と知識に則り黙っていた。
 この嵐という言葉すら生温い叱責を前に出来ることは、出来る限り”よい”表情を作り、怒りを収めてもらうしかない。だが”よい”表情は何時も同じではない。
 怒られる理由や怒る相手の機嫌によって表情は変えなくてはならない……はっきり言って無理である。常人であろうが超人であろうが、叱る相手が他人である以上、まして性別が違う相手では、どうやっても無理である。

 とにかく気が済むまで義妹に叱られる――それが帝国を預かる男が出した答えだった。最初から叱られないようにするのが最善で、普段はそれを選んでいるのだが、こればかりはどうすることもできない……

 それでデウデシオンがミスカネイアに怒られている理由はというと、
「思いの丈をぶつけるのは禁止です。自重と自制を念頭に置いてください。ザウディンダルを殺したくはないでしょう」
 過度の性交渉によりザウディンダルが瀕死になったことに関して。
 デウデシオン本人としては、まだまだ足りなかった。求められるザウディンダルも喜びを感じ必死で応えた。
「もちろんだ……」
 その結果【長年の両片思いが実った】ではなく【なに性的暴行を加えているのですか?】になってしまったのだ。
 要は「やりすぎ」
 四十間近の男がしでかしてしまったのである。

**********


 デウデシオンはザウディンダルのまろやかな肌に、やや冷たい唇を落とす。普段は相手を苛立たせるようなことばかり吐いているその唇だが、いまは優しく肌理の細かい肌に愛撫を加える。
 ザウディンダルの肌は羞恥で上気した色にほんのりと染まり、触れる冷たい唇からもたらされる快感にデウデシオンを求め潤み、熱くいきり勃った先端から情欲の雫が滲みだす。
 愛撫を強請りながら、早く欲しいと体を震わせ、
「デウデシオン……デウデシオン……」
 熱に浮かされたかのように、大量の甘さと微量の痛みが混ざった気怠げな吐息と共に、愛しい相手の名を囁く。
「どうした? ザウディンダル」
 肋骨から鎖骨へ、そして首筋へと舌を這わせ、己の名を呼ぶ濡れた唇をデウデシオンは少し塞ぎ、すぐに離れる。
「好き……」
 昔から変わらない笑顔と、子供じみた口調でデウデシオンを誘う。
「私もだ」
 デウデシオンはザウディンダルの後ろにあてがう。
 ザウディンダルは深呼吸をするかのように、ゆっくりと息を吸い、吐き出しながらデウデシオンの背中に軽く爪を立て、腰を少し上げる。
 誘いに従うかのようにデウデシオンはザウディンダルの中へ、その身を進めた。
 威圧感はあるが、快感のほうが上回る。心から喜んでいることが伝わる、やや鼻にかかった幼い嬌声を聞きながら、デウデシオンは片手でザウディンダルの微かな胸の膨らみを、やや乱暴にわし掴む。
 背筋が弓なりになり、デウデシオンを包んでいる箇所がより一層狭くなり、そしてそそり立っている性器が揺れる。
 握られた小さな乳房は、その薄紅色の乳首から乳白色の液体――母乳を滴らせ、デウデシオンの手を濡らす。
 デウデシオンは手を持ち上げて母乳舐め取り、逆の乳房を掴み乳白色の液体を指に絡ませて、子供の声で喘ぐザウディンダルの口に人差し指を入れる。
 ザウディンダルは赤子の頃と同じようにデウデシオンの指に吸い付き、自分の乳房から溢れた母乳を吸う。
 デウデシオンは指先を吸われながら、倒錯にも似た感覚を味わっていた。
 刺激を与えられた乳房から母乳が滴り、ザウディンダルの脇腹を濡らし艶めかしさを与えた。デウデシオンは舌先で丹念にその乳首を転がし、吸い、噛み、ねぶる。
 刺激を与えられて反応するのは乳首だけではなく、昂ぶった雄からも、誰にも触れさせたことのない雌からも、密が溢れ出す。
「デウ……シ……ん……」
 デウデシオンを受け入れている箇所は蕩けながらも、貪欲に熱を欲しがる。ザウディンダルの声に応えるように、デウデシオンは抽挿を繰り返す。
 声をあげることが出来ないほどの快感がザウディンダルの背筋を走り抜け、自身の熱を放ち、その身でデウデシオンの熱を受け止める。
 昂ぶり荒い呼吸を繰り返しながら、ザウディンダルはまだ体内に残っている放ったデウデシオンが離れるのは嫌だとばかりに締め付ける。
「私が満足するまで付き合ってくれるか?」 
 まだまだ止めるつもりはないと、歓喜の涙が伝った跡に唇を寄せて、デウデシオンはぱらりと落ちてきて目の前を隠す銀色の髪をかき上げた。


 ザウディンダルはデウデシオンに揺さぶられながら、本来ならばあり得ない自分の胸の膨らみに手を伸ばし、快感を得るために揉む。
 最初はおずおずと、徐々に強く。
「あ……」
 デウデシオンを受け入れていない側の奥深く、先日の襲撃でその存在を激痛により嫌というほど味わった子宮が”欲しい”と、内側から誘い腿の付け根や、デウデシオンを受け入れている箇所を濡らす。
 母乳は溢れ出し快楽を追っているザウディンダルの肘まで湿らせる。激しく揺さぶられながら乳白色の液体に濡れた手指をデウデシオンの口元へ運ぶ。
 デウデシオンはその指を掴み、強く吸い上げる。
「おいし?」
「ああ」

 片手で強く抱き締め、膨らみ始めたばかりの胸を強く吸い上げ、腰を打ちつけ、ザウディンダルの男性器を扱く。痛みにも似た強い快感に襲われ、ザウディンダルは意識を失った ――

**********


「ザウディンダルはまだ完全に体力が回復していないと、あれほど……」
 この場において最もいたたまれないのは、
「……」
 胃を抑えて俯いているタバイである。
 妻が兄と弟の行きすぎた性行為を諫めるのを脇で聞くなど、胃にきやすい彼でなくとも聞きたくはない事柄だ。
「ミスカネイア、ザウディンダルの容態を見てきて……くれ」
 ”話の腰を折った”と、二人きりになったときに叱責されることを知りながらも、タバイは兄の為に、そして妻のために話題を切り替えた。
 叱られている兄の為――は解りやすいが、何が妻の為なのか?

―― 言っても無駄だ

 妻がこれほど厳重注意しても、兄であるデウデシオンが守らないことを、タバイは弟として本能的に感じ取っていた。
 そして妻に無駄なことを言わせるのは申し訳ないと言う事で、必死に話題を変えたのだ。
 ミスカネイアは夫であるタバイを”ちらり”と見て、納得はしていないが、容態は気になるので言われた通りに叱責を”中断”して病室へと向かった。
「……」
「……」
 整えられている縦ロールが解けんばかりに怒ったミスカネイアが去ると、長男と次男は気恥ずかしくなり、互いに別の方角に視線をやり、しばし無言の時を過ごす。
「兄よ」
「なんだ? タバイ」
 ザウディンダルが【ラティランクレンラセオ】に何をされたのか解っているタバイは、デウデシオンの復讐したいという気持ちはよく解り、普段であれば止めないのだが……方法があまりに捨て身過ぎるので止めようとする。
「復讐なさるそうですが……それは止めましょう。別の方向で復讐を」
 デウデシオンが行う第一の復讐は弟全員が知っているが、第二の復讐は現時点ではタバイとキャッセル、そしてデ=ディキウレしか知らない。
 第二の復讐が成された後も、他の弟たちに「これについて」明かすことはしない。
 あまりにも残酷で、捨て身過ぎるからだ。
「いいや、この復讐でなくてはならないのだ」
「どうしてですか? もっと違う方法があるでしょう。髪を頭皮ごと引き抜くとか、男性器を切り刻むとか!」
 タバイは言いながら、笑顔でそれらを実行していたキャッセルを思い出し胃が自爆。こみ上げてくる血とその他諸々の体液を必死で飲み下しながら訴える。
「いいや、それでは駄目だ」
「なぜ?」
「この復讐は、私も傷つかなくてはならない。ザウディンダルがあの様な目に遭ったのは、私にも責任がある」
 脳裏に甦る犬に犯されるザウディンダル。
 距離的に無理であったなどというのは、デウデシオンの中では関係がない。己の権力がまだ足りないという事実を突きつけられただけのこと。
 その不甲斐なさを詫びる意味でも、この第二の復讐な成さなくてはならなかった。
「兄がそこまでいうのでしたら、私も!」
 同じ艦に乗っていながら、なにもする事ができなかった自分にも責任があると申し出たが、
「お前は駄目だ」
「何故ですか? 私だって直接復讐したいのです!」
 デウデシオンが行おうとしている第二復讐は、タバイにも出来ない事はない……が、
「お前の精神力では無理だ」
 妻も子も居る大事な弟の精神を病ませるわけにはいかなかった。
「ですが……」
 ”それに関する精神力”に言及され、タバイは言葉につまる。デウデシオンが言う通り、自分の精神構造では後を引くことは、誰よりもよく解っていた。
 その点デウデシオンは ――

「大丈夫だ。私にはザウディンダルがいる」

 精神的に強いというか、弾けたというか、暴走したというか……言葉を取り繕うと「幸せ」なので、誰が見ても大丈夫そうではあった。
『兄さん、大丈夫ですって。デウデシオン兄の好きにさせてあげましょうよ』
 キャッセルにもそのように言われていたのだが、タバイとしてはどうしても言いたかったのだ。
「解りました……もう何も言いません。ですが立ち会わせていただきます。万が一ということもありますので」
 ちなみにキャッセルは上記の後、このように続けた。
『兄さんが普通の拷問を希望するなら、デウデシオン兄が拷問したあと、私がやってあげますよ。任せてください……え? お前の拷問は最終的には死んでるだろうって? ええ、生存率は0%です。大丈夫ですって、だって相手はケシュマリスタ王。私が追加拷問したくらいでは死にませんって。なにせ皇君様の甥っ子ですよ、初の生存者になるに決まっています。シベルハムを呼べないのは残念ですけどね』
 必死に思いとどまらせたのは、説明する必要もないだろう。

「デウデシオン兄さん」
「なんだ?」
 タバイは再生しては自爆を繰り返す胃から手を離し、隠し持っていた「国璽」を差し出す。
「お返しします」
 偽物であることは解っているのだが、それに関しては触れずに、デウデシオンの手を包み込むようにして返した。
「……ああ」
 デウデシオンは逞しくなった弟の手に、己の手を重ねてから「国璽」を受け取った。


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