ALMOND GWALIOR −11
「本当に君は、いやになる程射撃の腕もいいね」
「まあ、なあ。だが射撃など、銃が勝手に照準を合わせるものだ。追尾システムを切って撃つことなど、お前とこうやって競う時くらいのものだが。実際の遠距離射撃ならばビーレウストには勝てないし」
「君って割と謙虚だよね」
「そうか? そんなこと、言われた事はないが」
「そりゃそうだろうね。君は黙っていると、謙虚さとは程遠い王子だもの」

 要するに君は王子様なのさ。いや、カレンティンシス王よりも王らしい……僕は君に「玉座」が良く似合うと、いや、相応しいと思うね。

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 僕は僕を手に入れる為に生まれてきたのさ。
 僕は十三歳の時、帝国騎士に叙任され、時を同じくして「帝国 “最強” 騎士」に任命されたキャッセル様の稚児になった。
 帝国最強騎士、最近出来たばかりの称号だけれどもねえ……機動装甲が戦争に本格的に用いられるようになったのも最近なんだから、当然と言えば当然だね。この対異星人戦が長引けば、この称号はもっと価値のあるものになるだろうね。……ま、その頃にはこの能力は完全にケシュマリスタの手を離れ、エヴェドリットに移動してるだろうけどさ。
 彼等は戦闘能力を身につけることに関しては、努力を惜しまないからねえ。
 まあ、まだまだ先の時代だろうけれどさ。人類が負けてなけりゃのはなしだけどさ。
 僕は別にキャッセル様の稚児になりたかったわけじゃないけれど、ラティランが「あの男は何かを企んでいる」と目をつけて、僕に探って来いと命じたのさ。
「閨の相手に重要事項を語るような男を君は重要視しているのかい? ケシュマリスタ王」
 周囲の者は、僕の口のきき方に眉をしかめたが、ラティランは違った。
「お前の言うとおりだな。だが、そこまで解っているお前なら、探る事もできるだろう。違うか?」
「僕を高く買ってくれているんだね」
「当然だ。肉親を殺して伯爵位を手に入れたお前の実力、見せてもらおうではないか。働き次第によって、お前の罪を無かった事にしてガルディゼロ伯爵家を[侯爵家]としてお前に与えてやろう。悪い話ではかなろう、異母弟よ」
 よく言うよ、自分は王になってから弟三人とその家族全員を殺害したってのに。それも君が殺した事にはならないように、弟達を嵌めてさあ。大した策士だよ、君は。
 王としては珍しいことじゃないけれど、ここまで手間隙かけて巧妙にやったってことは『評判』を気にしている……要するに、王から皇帝の座を目指しているってことだよね。何せシュスターク陛下は評判いいからさ。
 帝国宰相の情報操作と、陛下ご自身のあの容姿のおかげでね。
「僕は君の望んだ情報を持ってこないかもしれないよ。もしかしたら、僕の持ってきた情報は今役立たないで、遠い未来に役立つかもしれない。僕は情報を集める、君はそれの真贋を見極める。それこそが、王と家臣だと思わないかい? 嘘偽りない情報だけを与えられる王は愚かになる、部下に全ての情報を握られるわけだからね。情報は紛い物と本物を混ぜて届けられ、それを見極められる人間こそが王であると僕は思うね。だから君は僕が情報を持って来たら、その内容がどんなものであったとしても、僕にガルディゼロ侯爵家を与えるべきなのさ。そうだろ、君は真偽を見極められる自信があるからこそ僕に命じるのだろう? 閨で情報を取って来いと」
「生意気だが、使えそうだな。キュラティンセオイランサ」
「そうかな? 君が僕の年のとき、君は僕よりも生意気だったんじゃないかな? だから今、王なんだろう」
「ふふふ、行って来いガルディゼロ “侯爵” キュラティンセオイランサ」

 ラティランとキャッセル様は、顔は同じなんだよねえ。性格は全く違う……ように見せかけて、中々この人も。

「成る程な。ケシュマリスタ王がね。二年前に王になったばかりだというのに、次は皇位か。いや、元から皇位狙いか」
 僕はキャッセル様と寝た。
 僕と同じ柔らかな黄金で出来たかのような髪が絡まりあって、噂とは違う優しい方だった。キャッセル様は、随分と相手をいたぶる性向の持ち主だと聞いていたから驚いた。
 まあ、僕のことを疑っていたからそうなったらしいんだ。
 “この男から情報を探り出すのは不可能だ” だから僕は作戦を変えた。
 正直に告げたのさ。
「感心してる場合じゃないでしょ? キャッセル様」
「そうだな。私は別に悪い事をしているわけじゃないよ。唯ね……そうだな、君は賢そうだから全て君に任せようか」
「どういうことですか?」
 僕はそこで、キャッセル様が目指している事を知った。
 “ああ、成る程ね” と。そうだね、ラティランも騙されたんだから、何れは彼等が釣ろうとしている相手も釣れるに違いない。
「この事をケシュマリスタ王に告げるもよし、告げないもよし。それは君に任せるよ、キュラ」
「僕って、随分と判断力を高く買われてますけれど、おだてて殺す気ですか?」
「それは君の自由さ、キュラ」
 さすがは前皇帝庶子の年長組さん達だ、どれもこれも普通の神経はしてないね。
 まあね、僕もキャッセル様も帝国宰相も、黙ってたら殺される立場だからさ、自分の利用価値を自分で売り込み、その立場を自分で守らなけりゃならない。
 僕達は王子のように、生まれてきて喜ばれ、そのまま地位を与えられる生き物とは違うからさ。
「解りました。では、これから暫く、僕をお相手にしてくださいね。僕は貴方の特別ですよ、当然」
「当然だ、綺麗なキュラ」


 僕はキャッセル様の特別になった。十三から十八まであの人の稚児だった。他の子が十歳前後で来て十三歳前に帰されるのに比べたら、特別も特別。


 ラティランには別の報告をした。
「ねえ、ラティラン。ちょっと気になることをキャッセル様から聞いたんだけど」
「何だ?」
「巴旦杏の塔が開かれたのは何時か知ってる?」
 巴旦杏の塔と呼ばれる両性具有隔離棟。皇帝陛下の宮に存在する、独立管理システム下に置かれている性玩具の置き場所。
「……ファンディフレンキャリオス王が存命の頃だが」
 “ファンディフレンキャリオス” は僕やラティランの父親、前のケシュマリスタ王。
「ねえねえ、あれ “今の陛下用” に開かれてるんだよね」
 ≪あれ≫を開くのは相当手間隙が掛かるし、王達にもかなりの負担がかかる。
「それがどうした?」
「どうやらアレを開いた理由は陛下ではなく、帝国宰相に関係しているらしいよ」
 あれを開かせたのは先代皇帝ディブレシア。
 淫乱の性欲に支配された、実子である帝国宰相をも “襲った” 性豪が仕組んだことらしい。
 知能などないと言われているが、果たしてそれは本当のことだったのか?
「……ほぉ……どういう事だ」
「詳しくはまだ解らない。ディブレシア帝は皇太子シュスタークと庶子長兄デウデシオンに対して何かを仕組んだらしい。噂で聞くだけじゃあ性欲以外何も考えられない “大淫乱帝” になってるけれど、あの人は本当にただの淫乱帝だったの?」
「それは解らん。あの皇帝には極力近づかないよう命じられていたからな……巴旦杏の塔な……」
 宮殿には完全独立警備システムが敷かれているところは二箇所存在する。一箇所は≪神殿≫もう一つが≪巴旦杏の塔≫
 どちらも僕には縁遠い……いや、近寄る事もできない場所。神殿や巴旦杏の塔に近寄るには、王の子くらいの身分は必要だからね。神殿はいつも警備システムが稼動しているけれど≪巴旦杏の塔≫は稼動している時としていない時がある。
 両性具有がいなければ、稼動させていても意味がないからね。
 ただ停止も再起動も王にかかる負担が大きいから、殆ど停止させないで皇帝が引き継ぎを行ってきたんだが、暗黒時代に途切れた。
 正確には≪巴旦杏の塔≫が落とされた。
 ≪神殿≫には興味なくても、皇帝しか手に入れられない両性具有を手に入れる機会だったから……らしいけどさ。破壊された≪巴旦杏の塔≫が復活したのは、つい最近。そう先代ディブレシア帝の御世。

 謎が多い皇帝だ。そうそう、彼女についての謎と言えば、もう一つ。

「後さ、ラティラン。ディブレシアの庶子の父親で生き残っているのは誰か知ってる?」
「デウデシオンの父親は生きているな。フォウレイト侯爵 リュシアニ 当時二十八歳で妻子があった。宮殿で事故死したと侯爵家には伝えたはずだ。まだその当時は、ディブレシアがあれ程までに狂うとは思われていなかったので、そういった処置になったらしいが」
「その一人だけ?」
「一人だけだと聞いているが」
「何でもね、庶子の間ではもう一人父親が生きているって噂らしいよ。庶子の誰かの父親が生きている事がなんの役に立つかは知らないけれど、これを役立たせるのは君の手腕だラティラン」
「これからも、情報集めて来い」
「言われなくても。情報集めと言えば……ラティラン、君はあのテルロバールノル王子を手元に呼び寄せて何をしようとしているのかな?」
 ラティランが男の子を連れてきた。
 男の子って可愛い雰囲気はないけどね[前テルロバールノル王の自慢の息子、現皇帝の我が永遠の友]な王子は。
「それはお前には関係のないことだ」
「そうなの? だったら僕は僕の自由にさせてもらっていいのかな? 彼を誘惑して寝るよ。賢そうだけれども、まだ色には通じていなさそうだからね」
「……解った、教えてやろう。だからアレには手を出すな」
「さあね? 君の意見に従う僕に見えるかい? ラティラン」


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