ALMOND GWALIOR −137
「驚かせることしたら、駄目じゃないか! ハイネルズ」
「御免、御免」
「収納ベッドが面白いのは良いけどさ」
 ミスカネイアが施療中、廊下に待機している三人は”作戦”を再確認し、僅かな時間を使い反省会を開いていた。
「引き受けていただけるかな?」
「ザウディンダル様ってかなり頭良いんだよね」
「そりゃそうだろ。クリュセーク叔父さんと同じ部署に、セゼナード公爵殿下の引き抜きで入ったんだから」
「実働経験も豊富だしね」
 エルティルザ、十三歳。バルミンセルフィド、十二歳。ハイネルズ=ハイヴィアズ、十一歳。この三人ザウディンダルにどのように接するかを「甥目線」で決めようとしていた。
 それというのも彼らの母親はザウディンダルのことを「義妹」と呼び、父親たちは「弟……だよ」という。
 この曖昧さを問いただした所、この三人は”ザウディンダルが両方の性別”を持っていることは教えられた。
 呼び名の統一が見られないまま年数が過ぎ、もはや父と母の意見統一は叶わないだろうと甥たちは考えて「ザウディンダル様を甥としてどのように呼び、接するべきか」を自らで模索することに決めた。
 その第一次”ザウディンダル様と打ち解けよう”会戦の先鋒戦が”先程”まで。
「ところで、どう感じた?」
「やっぱりさ、お母様の意見が優勢かな? と思うんだ」
「でも、父上も立てるべきだよね」

**********


 シュスタークとよく似た皇帝系の顔立ちの父タウトライバと、美しい普通貴族アニエスを母に持つエルティルザは、髪の毛の艶が父親似で、非常に光沢があり一目で皇帝の血が入っていることが解る。
 顔立ちも父親似で、皇帝とも良く似ており、まさに”皇帝の甥”という称号が似合う少年。
 顔の作りや体格自体はカルニスタミアに似ている父タバイ=タバシュを父に持ち、縦ロールが特徴だが、顔立ち自体は地味といわれる普通貴族ミスカネイアを母に持つバルミンセルフィドは、整った顔立ちに父タバイが持っていなかったテルロバールノル風の華やかさを持っている。
 カルニスタミアとタバイは姿形は似ているが、タバイは”華やかさ”や”豪華さ”など、王族特有の空気を一切持たず、やや地味な感じがある。
 だがバルミンセルフィドは祖母にあたるディブレシア帝が持っていた華やかさを持ち合わせており、人目を引く。
 それで父は”ケシュマリスタ男顔と噂されている”デ=ディキウレで、母に”正体不明。だが美人らしい”を持つハイネルズ=ハイヴィアズは……
「ほら、私。知的な顔してますから」
「知的っていうより、戦争大好きな顔」
「うん。人殺し大好きな顔」
 先程バルミンセルフィドに”顔が凶悪”といわれたのは、戦争あるいは人殺しと同義語になる一族の顔をしているせいだった。
 そう、ハイネルズはリスカートーフォンその物の容姿を持っているのだ。
「失礼な。こんなにも知的な顔立ちなのに」
「知的なのは認めるけれど、顔は凶悪だよ」
「うん。凶悪」

―― 容赦ねえ……

 兄弟のように育った甥たちは、容赦なかった。

 バルミンセルフィドが母親を末っ子の部屋まで送り”重々言いますけど、ザウディンダルに迷惑はかけないようにね”と注意されて戻って来てから、様々な話をしていた。

「あ……でも、確かに知的かも」
 バルミンセルフィドが”思い出した!”と、人差し指を唇の上にあてて、上目遣いとも違うが視線をやや上に移動させて口を開く。
「やっと私の知的さを理解しましたか!」
「賢いとは思うけどさ」
「だって、同じお顔のデファイノス伯爵殿下が、本を書かれたりするじゃないか!」
 アマデウスの愛読者であるバルミンセルフィドが笑顔で話し出すと、
「……」
 エルティルザは硬直し、
「…………」
 ザウディンダルも硬直した。
 そして言われたハイネルズは、
「あの方は、知的ではないよ」
 強かった。だが、愛読者はそれを上回る。
「いいや、知的だよ。父上が帝国宰相閣下やキャッセル様、その上アジェ伯爵にジュシス公爵、リスカートーフォン公爵からまで借りてきてくださって読んだけど、どれも一貫して深淵をのぞくかの如き硝子の窓の上で虹を作り砕いたかのような世界だった。素晴らしいまでに、溶岩の中に深い見識を感じさせる慧眼が、ざっくりと光り輝き、それはまるで竹のふしに包まれた親指姫が見せる古びた桶のなすがままの姿。それは間違いなく百日紅が川を流れてゆくかのようで、デファイノス伯爵殿下の姿を感じさせるものだったよ」

―― なんだろう……ついて行けないっていうか、ビーレウストが可哀相になってきた

 若さだけでは言い表せない”何か”と「リスカートーフォン原論定理:八次関数編」を前に絶叫していたビーレウストを思い出し、

「バルミンセルフィドの方が天才っぽいよね」
「そうだね」
 二人の意見にも同意しかねたが、言うこともできなかった。
「特にジュシス公爵殿下からお借りした”怪奇譚・モニュメントの丘メメント・モリとユグドラシル”は、幼児期の人格形成にも絶対に好影響を与えるよ。オロディウスに朗読して聞かせているけれども、やはりとても喜ぶよ」
 オロディウスとはバルミンセルフィドの弟で、一歳にも満たない乳幼児。
「それは……止めたほうが良くないか?」
 他の家庭、他の兄弟関係に関して口を挟まないようにしているザウディンダルだが、こればかりは止めた方が良いと感じて声をあげた。
 上げると同時に”タバイ兄やミスカネイア義理姉さん、止めないのか?”とも思ったが。
「ほら、ザウディンダル様も止めるように言っているから、止めなよ」
「そうだよ。私みたいな人殺しの顔立ちになったらどうするの?」
「顔立ちは変わらないでしょう。オロディウスは父上に似て、テルロバールノル系の顔立ちですから」
「頑固に人殺しになったらどうするの?」
「人殺しは、ある種頑固さを感じますよ」
「テルロバールノルとエヴェドリット一緒にしたら怒るよ」

 誰が? とは誰も言わなかったのは、甥たちも帝国に生きる上流階級である自覚があるからだった。

 甥たちの雑談を聞いていても良いのだが、試験勉強の監督を受け持った年長者としてザウディンダルは、軌道修正を行った。
 この状態の会話に対して迂遠な言葉は無意味。
「試験勉強するんだろ」
「あっ! はい」
「三人だと、いっつも脇道にそれちゃうんですよね」
「脇道ってか、どうみても地下迷宮。地下迷宮と言えば、また見つけましたよ!」

―― 話が……話が……

 ザウディンダルの困惑を他所に、ハイネルズは部屋の隅に行き箱から”戦利品”を取り出してきた。
「見てください! 萌えっ子図鑑です」
 図鑑の”割り”には薄っぺらい冊子を取り出してきたハイネルズ。
「あれ、なんだ?」
「申し訳ありません、ザウディンダル様。ハイネルズ! それは禁書だから女性の目に触れるところで出しちゃ駄目って言われてるでしょ!」
「そうだよ! 申し訳ありません。ザウディンダル様。このことは、帝国宰相閣下に内緒にしておいてください。帝国宰相閣下は、萌えを発掘することにあまり良い顔をされていないので」
 二人の懇願と、
「済みません。今のは見なかったことに。知れると、父が帝国宰相閣下に叱られるだけではなく、母上にも絞められるので。夫婦仲の安寧と平和のためにも」
 息子ハイネルズの懇願を前に、頷くしかなかった。
「わかった、俺は何も見てない。見てないから、早く片付けてこい」

**********


 帝国には様々な地球文化が継承されていたが、暗黒時代に多くが失われた。神殿の内部には記録が残っているが、神殿には登録されないような人類文化もあった。
 その一つに小さな島国の文化があった。
 ”萌え”といい、やたらとキラキラに冊子化されていた。
 紙ででいていたため、かさばるそれは暗黒時代、継承者が逃げる際に置き去りにするしかなかった。
 だが失われることを危惧した継承者たちは、継承者の責務として、それらの冊子を命の危険も顧みずカートに積み、地下迷宮に小分けにして隠した。地下迷宮は罠が多く容赦なく彼ら命をも奪ったが、怯むことなく命がけで隠し、いつか平和になった時を夢見て地図を書き記し、命が残ったものたちは後ろ髪を引かれる思いで地下迷宮を後にして帝星から脱出した。
 帝国が安定していなかった頃は、顧みる余裕のなかった物だが、ある程度落ち着きを取り戻し、地下迷宮の主たるデ=ディキウレが現れたことにより、彼の指揮の下に回収作業が行われることとなった。
 置かれた冊子たちの配置場所を書いた地図を集めると、かなりの厚さの本が出来上がった。それを複製し、部下たちは本の回収に向かったのだ。
 総指揮はデ=ディキウレであるが、彼は他にも仕事があり忙しいため、長男のハイネルズ=ハイヴィアズに総指揮の代理を任せていた。
 この指揮はそのまま息子ハイネルズ=ハイヴィアズに移動し、彼の手により全ての萌え本や記録映像が回収されることとなった。
 「あだるとおんりー」や「R18」あるいは「成人指定」などと注意書きされている本もあるが、ほとんどの者は日本語が読めないので、それらを記号と解釈するのみ。
 ハイネルズ=ハイヴィアズは代理指揮当初は未成年であったが”作った人ももういないので、罰せられないからいいでしょう”なる精神で回収し復元した。
 彼も当初は日本語は解らなかったものの、復元作業に携わることにより古代言語に精通し、漫画だけではなく小説も楽しめるようになった。
 楽しめるようになった頃には、成人年齢に達していたので、問題とはされなかった。


 ハイネルズ=ハイヴィアズ。彼こそが帝国に萌えを復活させた男であり、その功績によりゴーベルジェルンスタ大公位を授けられるという偉業を成し遂げた男でもある。


 ちなみに萌えに長時間触れた彼も、萌えに感化されて自分の名前を「ハイネルズ☆ハイヴィアズ」とサインするようになる。
 そして当時の皇帝シュスタークは寛大過ぎる程寛大であったため「ハイネルズ☆ハイヴィアズ」のサインを公文書として通過させることを許してしまった。

 ゴーベルジェルンスタ大公ハイネルズ☆ハイヴィアズ。

 後に彼は言った ―― 私の語尾にはすべて星がついているのだよ☆ ―― と

 ちなみに墓碑の名も「☆」が刻まれている☆


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