ALMOND GWALIOR −108
 神殿の暗闇の中で、彼等はウキリベリスタルの真意に辿り着けないでいた。
 帝国宰相は立ち上がり、
「私はウキリベリスタルを ”両性具有の管理者” と ”皇帝の愛人” としか見る事ができない。あの男の ”王としての心理” は解明できない。そこに暗殺未遂事件の真相が隠されているのではないかと考えているが、思い当たることはない。私は王になるために生まれてきた男ではなく、王としての素質もない。ウキリベリスタルに素質があったかどうかは触れないが、私生児であり庶子である私が考えることのできない物の見方を、同じ[王の子]の立場にあるお前ならできるのではないか」
「さあなあ。答えを出せるとは俺も言い切れねえ。リュゼクに関して一から洗い直さなけりゃならねえからな。今の説もカプテレンダがリュゼクを嫌っていたら成り立たねえ。そう、あんたが息子のバロシアンを嫌っているかのように」
 言い終えたエーダリロクは帝国宰相が何かを言ってくるか、それとも攻撃でも加えてくるかと思ったが、予想に反して帝国宰相は背を向けただけだった。
 最初に背を向けて情報に関しての話をしたのとは別の、拒否と虚無がない交ぜになっているその後ろ姿だが、エーダリロクは容赦しない。
「嫌いなのか?」
「答える必要はない」
 話掛けているエーダリロクは、帝国宰相がどう答えるかは解らない。
「そうだよな」
 その拒否する自分と同じ銀髪の後ろ姿に ”あの日処分した七体” を思い出す。
「何が ”そうだ” と?」
「答える必要はねえんだろ」
 自分の特性を理解するために作った ”実験” により発生した ”七体” を処分するとき、エーダリロクは何の感情もなかった。それが幼さによる残酷さだったのか、自らの情緒面の発達の悪さだったのか。
「確かにそうだな」
「帝国宰相、あんたは ”私達の立場は弱い。何時いかなる時でも、何事であっても陛下の庇護の元で行わねばならぬ、弱い者達だ” って言ったな」
「そうだ」
「陛下の崩御後は、どうするつもりだ?」
 彼等は寿命を測ることができる。
 皇帝の寿命は王族も知っている、帝国宰相の寿命は限られたものしか知らない。その限られた者の一人がエーダリロク。
 皇帝の庇護が無くなった後も、計算された寿命では生きている帝国宰相。その時に彼は、新皇帝に庇護を求めるのか?
「私が失脚しようが、殺害されようがお前の知った所ではないだろう。私が無様に死に絶える姿を見物するが良い」
「……」
「その頃はどうでも良い。もうどうでも良いのだ」
 何かに言い聞かせるように二度繰り返した呟きに、エーダリロクは目を閉じて否定するように頭を振るが、エーダリロクに向いていない帝国宰相は気付くことはない。
 帝国宰相の権力の源である皇帝シュスタークが崩御する頃、彼のもっとも大切な両性具有ザウディンダルは既に寿命が尽きている。
「本当にどうでも良いのか?」
「お前に何かできるのか? ……お前と陛下は同じであるのに、寿命は同じではないのだな。お前と陛下の寿命が逆であったなら」
 エーダリロクの寿命は皇帝よりも、帝国宰相よりも長い。その寿命が何故皇帝には 《ない》 のか、知らされている者は少ない。
「両性具有の寿命を延ばす研究をしていると言ったら、あんたは信用するか?」
 振り返った帝国宰相の表情は、喜びと同量の恐怖を含んでいた。ザウディンダルの寿命が延びることは純粋に嬉しいのだが、自分を越える寿命をザウディンダルが得てしまえばと考えた時、クレメッシェルファイラの末路が甦り、吐き気と共に攻撃的に叫び出したくなる。その気持ちを抑えて、
「そんな研究をしているのか。無意味なことだ」
 エーダリロクも驚くくらいに冷静な声で返した。複雑な内心を浮かべる表情と、冷静であろうとする理性の声。
「無意味か……そうかも知れねえが……話はここで終わりにしよう」
 同意した帝国宰相の表情からは、既に感情が消えていた。足音を響かせ扉を開き神殿から出る。そのまま帝国宰相は去り、エーダリロクは神殿の入り口を見上げる。

《喜びはしなかったようだな》
− まあな。別に俺は帝国宰相を喜ばせるために両性具有の寿命を延ばす研究をしている訳じゃあねえから良いんだが。弱き者達……か
《何故寿命が違うか……か。私のことを考えれば推測できそうなものだが》
− 推測はできても、それが正しい答えかどうかが解らないから……誰か来たぞ

 人の気配の無い、立ち入りが制限されている神殿に感じた気配にエーダリロクは振り返ると、何時もと変わらない柔らか ”そう” な笑顔を浮かべた皇君が、散歩でもしているかのような歩調で近付いてきた。
「やあ、ゼフォン」
 背の高い細身の皇君はエーダリロクを自ら名付け、名付けた皇君以外は殆ど誰も使わない愛称で呼びかけてきた。
「ヴェクターナ大公、こちらに何か用事でも」
 このゼフォンの由来は、 ロヴィニアの初代王がゼオン・ロヴィニアであることと、エーダリロクの原型が[大天使]の一つで 《何となく両者を繋げてみたいので》 なる詩人・皇君のかなり適当な感性によるものである。
「我輩はここの警備責任者だからねえ。お話は終わったかね、ゼフォン」
「はい」
 ちなみにもう一人皇君に愛称を付けられているのがビーレウスト。
 古代に使われていた今では使用されることはない[神に愛される]という意味を持つ ”アマデウス” と呼ばれている。これはビーレウストの実兄であった帝君も使っていたので、ビーレウストは幼い頃、自分のサインとして結構 ”アマデウス” と書いてしまい、成長した現在は頭を抱えてのたうち回っている。ビーレウストの暗黒史の一つだった。
「そう警戒しなくとも良いよ」
「ははは……」
 ”よく言うよ……” と思いながら、皇君の動きを注意深く見張る。その視線を全く無視しながら皇君は脇に抱えていた本を差し出す。
「これをゼフォンに渡したくてね」
「何ですか? あとゼフォンは止めていただきたいなーと思う次第だったりさ」
「アマデウスの習作を集めて製本したのだよ」
 読書好きのビーレウストは幼少期、幾つか物語を書いていた。ほとんど読んだ作品を切り貼りした……早い話が盗作のようなモノなのだが、本人が売ろうと思っていたわけでもなく、同い年の天才エーダリロクに負けじと、そして絵本を描いていた兄帝君の関心を引こうと必死になっただけのこと。
 所持していたのは兄帝君だったので問題はなかったのだが、形見分けでそれを皇君が譲り受けた所から、徐々にまずい方向に転がっていた。
 皇君、勝手に製本してプレゼントして歩くのだ。兄帝君も赤革張りの金箔箔押しで著者名[アマデウス]で幾つか製本したが、皇君は作品にもなっていない書き留めただけのメモまでまとめて注釈をつけて、羊皮紙に自らの手で清書するようなことまでしている。
 アマデウスことビーレウストが「止めて下さい」と言っても聞いてはくれない。
「ありがとうございます」
 そして物語創作の才能は ”皆無” と自他共に求めるエーダリロクは、ビーレウストの書いた話を純粋に喜んで貰う。
 物語は滅茶苦茶なので、天才的な頭脳をもつエーダリロクでも意味は全く解らないのだが ”ツギハギでも話が書けるってすげーよ” と、本気で思い喜んでおり、それが本気だと知っているビーレウストは何時も胃が痛む思いをしながらも喜ぶエーダリロクを前に ”焼き捨ててくれ!” とも言えず、一人自らの暗黒史に沈んでゆくのであった。
「それではな、ゼフォン」
 本を手渡した皇君は、来た時と同じ歩調で無防備に背中を向けて去っていった。

「だからゼフォン止めてくれと言っているのに」
《あのタイプは、話を聞いても聞かない素振りが大得意だ》
− 何、しみじみ言ってんだよ
《私も過去、色々あったのだよ。どうした?》

「本にメモが挟まってた。返した方が良いよな……!」
 メモには皇君の手で書かれた、ザロナティオン以来の皇帝の系図が描かれていた。それは一般に流布しているものではなく、秘密を知る者のみが描けるもの。
《マディルファイデの名がないのか》
 皇帝と次代皇帝の片親、そして皇帝の名だけが書かれているもので、当然そこにはルーゼンレホーダの生母を偽装するために迎えたテルロバールノル王女マディルファイデの名は無かった。
 正気を失うことが多く言葉も失っていた 《自分》 に冷たい視線と共に、気位の高いテルロバールノル ”らしい” 言葉を投げかけてきた王女。
「ちょっと待て! あんた今、何って言った」
《どうした?》
「早く今の言葉を! 内心で呟いた言葉を!」
《 ”貴様の子なぞ要らぬ。儂の血は直系じゃ、貴様等とは違うのじゃ” だ。良いのか? エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル、私との会話が口に出てるぞ》
「そんな事、構っちゃあいられねえ。そうだ、すっかりと忘れてたけど、ウキリベリスタルはあんたにとって、あんたはウキリベリスタルを ”こう” 表現するよな? ”ルクレツィアの前末王” と」
 ザロナティオンは現王を系統主の名をもって言い表す癖がある。
《そうだな。それがどうかしたのか?》
「どうもこう……」
− ここからは口に出せない話だ。帝国宰相も言っていたが、俺達はウキリベリスタルを両性具有の管理者として見ている面が多すぎる。あんたが言った通り、ヤツはルクレツィアの末王でアルカルターヴァ公爵なんだ。俺達がヤツの優先度を、物事の比重を勝手に決めているからおかしい。ヤツにとってアルカルターヴァ公爵がどれ程の物だったか? そこが ”暗殺未遂事件” の重要な鍵になってくる
《ルクレツィアの末王にとっての王国か。テルロバールノル王家の気位は並の物ではない。特にあれ達は、帝国において唯一の開祖以来の直系だ》
− そうだ。それが奴等の自慢であり、奴等を増長……いいや、使命感に燃えさせたとしたら?
《使命感?》
− アイツ等から見たら、今の帝国は僭主に乗っ取られている。そう見えているとは思わないか?
《…………》
− 全ての虚飾を取り払おうじゃねえか。最古の王家で帝国建国以来、その直系が途絶えていない由緒正しい王家。俺達は平定後、一度も最古で唯一の直系の血を引いていないどころか、クローンだらけだ。それも 《銀狂》 あんたばかりが、三度も皇帝の座についている。これは非常事態だ! 皇帝の座を独占する 《帝王》 を排除しなければ、永遠にその座に座り続けると考えた。あんたが認める、認めないの話じゃねえ。そんな考えを持ったとして、次に奴等は何を考える? 自分達は最古の王家であり、確実にシュスター・ベルレーの血を受け継いでいると思った時、奴等は僭主に乗っ取られた皇室を救うために行動を起こす
《簒奪……か。アルカルターヴァ共にしてみれば、正統の復古か》
− そうだ、ラティランがサウダライト帝の子孫であることを正統性として掲げるのと同じく……それ以上だな。正統で儀礼に煩い奴等が皇帝の座を狙う。考えたウキリベリスタルは既に即位しているから、皇位継承権はない。ヤツはこの手の決まりを破らない、なぜなら正統性と正しさを持って、皇室を ”救う” つもりだから。ヤツの一族はあんたの皇后マディルファイデのお陰と皇族の少なさから 《新法》 である皇位継承権第三十六位制定範囲内にカレンティンシスとカルニスタミアが入っている。もちろんゼティールデドレにもある。むしろ皇位継承権に関してはゼティールデドレの方が高かった
《その場合は、サウセンテイアメドは?》
 テルロバールノル王家の八十三歳になるサウセンテイアメド王女が存命だったが、その年齢から二十四歳のシュスタークの正妃候補から外されていた。
 彼女は帝王の皇后マディルファイデの姪であり、ルーゼンレホーダの正妃の妹にあたるので、皇位継承権も所持している。生まれた順位から、カルニスタミアどころかゼティールデドレ、継承権を失う前のウキリベリスタルよりも皇位継承権の順位は高い。
− サウセンテイアメドは時期がきたら殺害する予定だったか、もしかしたら簒奪前に死ぬのが解ってたのでそのままだったかじゃないか。サウセンテイアメドが死んでいるのは確実だ
《何故だ?》
− カレンティンシスを守るためには、老王女は邪魔だ。女性皇帝の御代では女王は殺害される
《なるほどな。だがな、エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエルよ。いくらルクレツィアの末王が正統性を叫んでも、貴様の兄であるヒドリクの傍系王が黙ってはいまい》
− 違うんだ。ヤツは知っていたんだ! だからリュゼク・フェルマリアルト・シャナク=シャイファをナイトオリバルド・クルティルーデ・ザロナティウスの正妃にしなかったんだよ!
《何を知っていたというのだ?》
− ”弱き者達” と名乗った帝国宰相だ! ディブレシアはザウディンダルの ”主人” を帝国宰相にした。それを行ったのはウキリベリスタル。両性具有は皇帝に献上されるもの。ディブレシア帝はデウデシオンに ”両性具有を下賜した” した。それは正規登録じゃないが、皇帝の意志は明確だ。ディブレシアはデウデシオンを皇帝にしようとしていた! その計画はかなりの現実性のあるものだったに違いない。なによりも、ウキリベリスタルは全面的に協力しただろう
《簒奪の前に簒奪させるのか。庶子が皇帝の座に就くとなると、お前の兄であるヒドリクの傍系王は死んでいるな》


 銀河帝国皇帝の座を最古の王家であり直系の血筋である息子に継がせる為に、庶子皇帝が立つ手助けをする


 ウキリベリスタル、彼は両性具有の息子に固執したのではない。彼は王であるが故に 《仕えるべき相手である皇帝》 に固執したのだ。
− 俺もカレティアっていう存在に注意が向きすぎてた。ヤツは私人である前に王だった……どうかしたのか?
《今お前は ”注意が向きすぎていた” と言ったな》
− そうだ
《それはルクレツィアの前末王の狙いだったのだろう。両性具有である子を守る反面、それをエサにする。お前は次の巴旦杏の塔の管理者になることは早い段階で決まっていた。暗殺によってお前とルクレツィアの末王との間に空白の時間があるが、先ほどお前がフューレンクレマウトに語ったように考えてみると、暗殺されずに引き継ぎをしっかりと行って管理者の地位を渡す。渡されたお前は書類に ”もう一人の両性具有” の存在を見つける。それがどうも前任者の ”息子らしい” その時お前はどうする? エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエルよ》
− 調査するが……
《調査はすれども、前任者には聞かんな。それは多分、お前を足止めするものだ》
− 足止め?
《お前は ”自分” を忘れたのか? お前は私であり、皇帝だ。息子を皇位に就けるのに、お前ほど邪魔な男はいない。私がルクレツィアの末王であったなら、お前が最も厄介で注意を払う》
− そこまで言われる程じゃねえが。そうか、だから両性具有の廃棄書類の中にカレティアに関する物が混じっているのか
《話を中断させたな。お前の推理、続きを聞かせてもらうか》
− ディブレシアが帝国宰相に皇位を簒奪するように仕向ける。これは間違いなく、帝国宰相が陛下を殺すシナリオだ。それはウキリベリスタルの消極的だが協力もあり成功する。そこからヤツは皇位を奪いに向かう。陛下が殺害計画の上に成り立っている簒奪だと知っていたウキリベリスタルは、忠臣の娘を差し出す気にはなれなかった。リュゼクの性格からしても、帝国宰相如き庶子に皇位を奪われてなるものかと、必死に陛下を守るだろう。父や国王が何と言おうと、あの女は陛下を守り戦死する。運が悪けりゃあ生き延び、皇帝になった帝国宰相の妃になる可能性もあると考える。それ以上に、リュゼクと陛下の間に ”皇女” が既に生まれてしまっていたら、帝国宰相がそれを正妃にして、旧世界の王家のような 《娘婿》 として帝国に君臨することも考えられる。リュゼクが陛下よりも年下だったら良かったんだが、悪いことにリュゼクは陛下よりも五歳年上だ。身体の発達から考えても、すぐに後継者を産んでしまう。陛下が十八歳で陛下が初めて異性に触れることはヤツも知っていたが、陛下がそれ以前に性交を望むことも考慮して早い段階で計画を実行する。暗殺未遂事件が起こったのは、リュゼクが十五歳の時。貴族の婚姻にして性交が認められる年齢だ
《前任者は寿命から考えると、まだ生きている筈だったな》
− ウキリベリスタルのヤツはまだ国王の座に就いている予定だったろうさ……
《どうした? エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル……待て、それ以上考えるのは止めろ! 落ちつけ、思考がお前の精神を!》
 エーダリロクの頭の中で情報が錯綜し、精神が情報の処理量と速度に耐えられなくなった。
「うあ……」
 持っていた本を落として、頭を抱えて背中を壁に押しつける。
 頭が痛いなどと感じることはなく、ただ足下からなにかが消えて行くような感触に歯を食いしばろうとするが、それもで出来ずに陸に揚げられた魚のように喘ぐ。
《考えることを止めろ!》
「あっ……あああああ……」
 ”自分が狂い始めた時の感触に包まれた” 銀狂は、急いで考える事を止めろと叫ぶが、その声もエーダリロクには届かない。


 泡になって消えたの。違う、消したの


「まったく」
 崩れかかっていたエーダリロクが背筋を伸ばした直後、倒れ込むような勢いで手をつく。
「普通に歩くのは慣れんし、ここから部屋まで二足で戻るのは距離的に無理であろうな。見つからぬうちに……戻るとするか」
 エーダリロクの精神を乗っ取ったザロナティオンは苦笑して本を口にくわえて、四足歩行で歩き始めた。

**********

 泡になって消えたの。違う、消したの


「……あれ?」
 エーダリロクが目を覚ましたのは、意識を失ってから五時間後のこと。
《目が覚めたか、エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル。気分はどうだ?》
 部屋で寝ている自分に気付き、体を起こす。
− 最悪だ
《思考が精神を蝕み過ぎた。数日は考えることは止めろ》
− って言ってもよ
《私が止めさせる。全てを止めろといっているのではない、情報を得るために動くのは良いが、しばらくは考えるな。考えを纏める時も、私と話すのではなく、あのディルレダバルト=セバイン末伯爵と言葉で直接語り、話を聞いて貰って意見を交換しろ。脳内に直接情報を送り、内部で別人格と話すのは危険だ。それで精神を壊し狂った私が言うのだから。絶対に従え。良いな、二十五歳の幼子よ!》
「解ったよ……ところで、戻って来る途中誰かに会ったり会話したりはしてないよな」
 自らの体の 《違和感》 から、四足歩行したのだろうと気付き、念のために尋ねるも、
《会話はしていない。私の身体能力を使えば、他者の目に映らないで移動することは容易い。見つかったとしても ”爬虫類の気持ちを知るために四足歩行していました” とでも言えば、どうにでもなるのではないか?》
「あんた……ねえ……」

 返ってきた答えはかなり適当であった。


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