ALMOND GWALIOR −107
 まずは先に話させろと、カレンティンシスが両性具有であることを ”皇帝に告げるな” と銀狂が語った。
 それを聞き終えた帝国宰相は、
「ご意志に従います」
 膝を突き頭を下げ、そのままの体勢で、帝国宰相は暗殺について語る。
 暗殺事件の状況などは一般に公表されているものと何ら変わりがない。そして帝国宰相が暗殺を決めたのは、
「あの暗殺は元々ウキリベリスタル王が用意した ”ウキリベリスタル王暗殺未遂事件” を使ったものだった」
 ”意外な下地” の存在だった。
 初めて聞いた事実に銀狂は下がり、エーダリロクも床に座ってじっくりと話を聞く体勢を取る。
「自分で自分の暗殺未遂事件を計画したんだな?」
 自らの命を危険に晒して敵を排除するという方法は、有り触れた手段ではあるが、ゼティールデドレを排除するために計画されたなどと聞かされたら、多くの者は否定する。
 ウキリベリスタルにとって、ゼティールデドレは暗殺未遂事件までお膳立てして排除しなければならない程の相手ではなかった。エーダリロクですら、帝国宰相がこの場で語らなければ信じない程に、二人の権力の差は絶大だった。
 暗黒時代終結後、王は自分以外の王族が権力を持つことを恐れ、権利を取り上げた。最近は落ち着いてきて、正常な範囲程度の権利を持つ事ができるようになったが、それはエーダリロクの世代でのこと。
 その前の世代では、王の子であるがゆえに虜囚にも等しいような扱いをされていた者も多数存在する。ラティランクレンラセオの父王が、長子である彼にどうしても位を譲りたかったのも、過去の遺恨が大きい。そして両性具有であった長子を王位に就けたウキリベリスタルは、息子達に対しては色々あるが権力を取り上げることはしなかったが、弟達はほぼ全ての特権を取り上げ、生活に困らない程度まで資金をも取り上げた。
「そうだ。ここからはセボリーロストが語った所によると……」
 ウキリベリスタルには三人の実弟がいた。うち二人はディブレシアの夫となり、末の弟王子である前述のゼティールデドレは ”もしもセボリーロストが死んだ場合、次の皇帝の夫にする” なる理由で、結婚させなかった。ゼティールデドレの方は、皇帝の正配偶者になれるかどうか解らない上に、進んでなりたい立場でもなかった。
 完全な飼い殺し状態となっていたゼティールデドレに、ある日 《兄王ウキリベリスタルの命により》 婚約者が定められた。それがリュゼク。
「セボリーロストもカレンティンシスの妃になるだろうと考えていたリュゼク姫が、何の権限もないうち捨てられるかのような王族のとの婚姻。裏があるのではないかとセボリーロストは考え、実兄の動向を探ろうと考えたという」
 かつて力無くなにもできなかった王子は、実兄の不審な行動を確かめようと必死になったが、手持ちの駒の少なさと、これらに関しての教育や方法を教えてはもらえなかった皇婿は、兄王の考える所を見つけ出すことができなかった。
 ”自分よりも権力を持っている相手の動向を探る方法” を知るために、皇婿はいつもそれらを行っている帝国宰相たちに話しかけて来た。
「協力したのか?」
「協力ではなく、私はあの男の委細を知りたかった。何を企んでいるかを調べる過程で、セボリーロストに情報を与え、その見返りにテルロバールノル王国内での行動の自由を貰った。そう、王宮内での行動もな。そうしている間にゼティールデドレを暗殺未遂の罪で処刑するらしい情報を手に入れ、それを使って暗殺を試みた」
「……なるほど。王族に手引きした者がいなければ、この暗殺は起こりえないと言われていたが、王自らが暗殺未遂事件をつくり上げ、排除されない弟がそれを実際のものとしたのか」
 ウキリベリスタルは弟の一人、皇帝の父となったセボリーロストの成長を知らなかった。何時までも彼の下にいた何の権力もない、ゼティールデドレと同じく深く考えることが苦手な弟のままだと信じて疑っていなかった。
 弟であった男は自ら王家の未来を考えて、行動にうつせるまでになっていたことなど、考えられもしなかった。
「”暗殺未遂事件” を起こす理由が未だに解明されていない。暗殺未遂事件により大逆罪でゼティールデドレを処刑するとして、何のために? となった時、誰も答えを見つけられず。私も答えられなかったが、殺害する好機を逃すわけにはいかぬと、ウキリベリスタルの暗殺を命じた」
「”暗殺未遂事件” の実行犯が誰なのかも解っていたのか?」
「知っていた。カプテレンダはゼティールデドレの側近という名の見張りであり、尊敬しておらず陥れるのに良心が咎めることもなかったようだ。そしてカプテレンダは王の命に従い、暗殺未遂の実行犯になることを受け入れた」
「ウキリベリスタルが信頼して、実行犯に仕立て上げるために長い時間をかけた……って事だよな?」
「そうだ。ウキリベリスタルに絶対の信頼を置かれているのが現テルロバールノル王の側近プネモス、そして次がカプテレンダだった。あの王は自らの側近をある時期から何故か散撒くようにした。カレンティンシスが両性具有だとすると、最も信頼されていたプネモスが付けられたのは理解できる。ではカプテレンダを弟王子の側近にして、その娘を婚約者にまで仕立て上げた理由は? それが不明なのだ」
 ”暗殺未遂” を企てたとして排除される男に、何故娘まで捧げるのか? 王の真意を知っているからこそ彼は名門公爵家の名を貶めてすら従ったが、誰もそれを知らない。
「その前に聞きたいんだが、あんたは何処まで情報を掴んでいたんだ?」
「聞きたいことは、はっきりと言え。誘導尋問にも取れる質問には答えん」
「疑われてんな……それが俺たちの特徴だから、いいけどよ。あのなカプテレンダが提示した証拠品と、あんたがハセティリアン公爵夫妻に命じた暗殺の結果は大きな食い違い……ってか、普通だったら罪に問われないような状況証拠じゃねえか」
「そこからが最も大きな謎だ」
「あん?」
「カプテレンダがどのように暗殺未遂を行うかも知っていた。証拠の品に関しても九割近く調べ上げて、私達は別の方法で殺害をすることにしたのだ」
「何でだよ?」
「リュゼクだ」
「あの気の強い公爵様がどうかしたのか?」
 彼女は軍人でるテルロバールノル王国軍を排除されているカルニスタミアの代わりに、国王から預かっていた。
 大逆に連座した者の娘であることから国軍最高位につくことは出来ないが、父カプテレンダのそして公爵家の汚名を濯ぐべく、日夜忠誠心を持ってカレンティンシスに仕えている。
 王国軍の王から代理として認められた責任者同士として、エーダリロクは彼女と会ったことは何度もある。
 ”儂等の王子を誑かす両性具有” の管理者たるエーダリロクに対して 《何故、あれを収容しない!》 と激しく抗議してくる、気の強い強情で頑固な、両性具有嫌いの急先鋒。
「ウキリベリスタルを暗殺し、その罪を王弟に被せるとして、実行犯はカプテレンダ以外であると幾つもの証拠を残す。そうしてカプテレンダを大逆罪から遠ざけ、娘であるリュゼクを陛下の正妃 ”皇后” とする予定だった。年の頃は五歳程度年上で、テルロバールノル王国屈指の名家。帝国の状況からみて最良の判断だったと、私は今でも自信を持って言い切れる」
 陛下の正配偶者不足に、帝国宰相は動いていた。それが形にならなかっただけで。
 リュゼク皇后説を語られたエーダリロクは、思考の花が音を立てて開いた。存在に気付いてすらいなかった様な小さな思考の違和感、それが開花して ”気付いてくれ” と声なく囁きかけてくる。


 培養液に生まれ、確認後処分した七体の ”姫”


「…………っ!」
 自分がウキリベリスタルの立場にいたならばと考えた時、カルニスタミアとリュゼクが交錯した。
「どうした?」
 帝国宰相の声に、喉の奥にいつの間にか居座った罪悪感を飲み下し、エーダリロクは話を続ける。
「いいや。まだ語るには情報が足りず、議論も足りない。そうか……それを提案したのは?」
「セボリーロストだ。テルロバールノル王家は四代続けて皇帝の片親の座に収まっていない。銀狂陛下の皇后はテルロバールノル王女であり、ルーゼンレホーダは二人の間に出来たこと記載しているが実際は違うのは帝国中枢では公然の秘密。その事もあり、セボリーロストは正配偶者に自王家の貴族をと考えた」

 帝国宰相は他王家の者は誰一人信用していない。ここでセボリーロストが僭主の末裔の扱いをめぐって、不仲になり王国を見捨てていたことなどは語らなかった。
 ザウディンダルの出生を知っていることは、推測の範囲ながら ”ザウディンダルが知ったと思しき時期に、奴隷惑星に二人きりだった” 報告から、目の前にいる銀狂を持つ男が知っていると見ている。
 本来ならばその事を語り、別の情報を得ることもできたが、あえて語らなかった。
 ”セボリーロストは兄王を恨み、疎ましく思い、そして王国に復讐したいと願っていた” ことは語りはしない。ウキリベリスタルに対し、彼とよく似た感情を持っている帝国宰相は、代理で語るだけでは終わる事ができないと。
 両性具有と僭主とザウディンダル、それら全ての行き着く先であるウキリベリスタル。それには触れずに、帝国宰相は話続ける。
 エーダリロクはこの場で帝国宰相の内心や、皇婿の兄王に対する嫌悪感などは全く気付くことはなかった。

 互いに語れない部分を相手に悟らせずに ”暗殺未遂事件” を探り続ける。
「今の 《帝国》 の状況を鑑みりゃあ、王暗殺ですら正当性が生まれるな。なるほどな、あんたは暗殺が自らが命じたと知られた所で、言い逃れできる術を持っていたんだな」
 暗殺に正当性などはないが、認められるものも存在する。

− 皇后としてリュゼクを引き渡すように命じたが、テルロバールノル王が応じなかった

 当時の状況ではそれがまかり通る。
「当たり前だ。私達の立場は弱い。何時いかなる時でも、何事であっても陛下の庇護の元で行わねばならぬ、弱い者達だ」
「あー……なあ? 帝国宰相」
「何だ?」
「リュゼクはテルロバールノル王家が押す正妃候補でもおかしくはねえよな」
「おかしいどころか、むしろ当然だろう。それを王弟如きの妃に定めたのが、セボリーロストの目にも奇異に映ったのだ。通常であれば王弟よりも王子カルニスタミアの妃にするだろう」
「ああ…………なんとなく全体が見えてきたが、そう考えると余計にカプテレンダの行動が異常に映るな」
「娘の未来を潰してまで暗殺実行犯だと言い続けた男。王暗殺の実行犯が捕まえられないのは、民衆にも示しがつかんので別人を犯人として仕立て上げることは珍しくはないが、スケープゴートにしては損失が大きすぎる」
 ゼティールデドレが死んだことは何の損失にもならなかったが、かつて王の側近の地位についていた名門公爵家の当主の死は、カレンティンシスにとっても痛手だった。
 それから続く混乱でカルニスタミアは長いことケシュマリスタに留まることになり、結果として両性具有と関係をもつことになる。
 その時カプテレンダが本当の事を言っていたなら、カルニスタミアは長いことラティランの下にいることなく、ザウディンダルに然程興味を持たなかった可能性もある。
「”カプテレンダは娘を皇帝に嫁がせたくなかった” この考えが最も正しいとしか言えないな」
「”正妃にしたくはなかった” その答えは私にも出すことが出来たが、理由は全く解らない。お前が管理者になる以前にリュゼクが両性具有かどうか調べたが、単一性の女で間違いない」
 王国で必死に皇帝の正妃から除外しようと、だが生かそうとされた姫。
 彼女は何かを期待されていた。だがその期待がなんであるのか? 彼女は知らない。
 現国王カレンティンシスは自らが側近の息子と大逆の息子に、同じ家の姉妹を分けて与える。この時点で多くの者は、リュゼクとバルバウテウは赦されているのだと解釈している。
「そうか。カプテレンダは妃と共に自殺したんだよな。娘のリュゼクと息子のバルバウテウを残して。この二人が何か知っているとは思えないから、他に何か知っていそうな奴の目星とかは?」
「プネモスと ”ゾーレウド”」
「ゾーレウドだと!」
「知らなかったのか? 意外だな」
 帝国宰相の神経を逆なでするような言い方をしたものの、エーダリロクはそれには乗らずに、
「全て機能停止時期をむかえたと勘違いしていた。それでゾーレウドは ”どんな役割” を?」
 極めて冷静に答えた。
 ゾーレウドとは記録に関する部分を機械に置き換えたもの 《だけ》 指す。義肢や義眼を用いていても、ゾーレウドとは言われない。
 このゾーレウドは製作はもちろん禁じられている。
 ごく普通の 《人造人間の血を引いていない成体》 所謂人間にしか出来ない施術で、記憶演算処理能力も、エーダリロクのようなタイプには遠く及ばない。
 機械と繋がれれば、情報を取り出し、ゾーレウド側から伝えたりすることも可能だが、人造人間は端末用に開発され、情報機器にリンクできるように作られているので、多くの者がリンク可能であるために、ゾーレウドの価値は高くない。
 暗黒時代以前には既に廃れていた技術だったが、帝国再建途中でウキリベリスタルは帝国システムの復元の際に、何体かのゾーレウドを作成し、帝国の失われた記録の書き込みをさせた。
 そしてもうひとつ、大きな特徴がある。ゾーレウドは独立記憶が可能なのだ。
「カプテレンダの側近だった男。主の自殺後に発狂し、隔離されている。監禁しているのはリュゼクで ”内側からしか鍵の開けぬ部屋” で奇声を上げて、今でも生きている」
「待てよ、内側からしか鍵……それは!」
 ゾーレウドは自らそこに篭もった。その場所も用意されていた。彼等はゾーレウドに命じていたのだ。

 《彼等》 が誰なのか、はっきりとは解らないが

「ゾーレウドは何かを知っているとリュゼクも考えて、時間を見つけては扉の向こう側から尋問するも、ゾーレウドは決して何も答えようとはしない」
「じゃあなんで、鍵かけて生きてるんだ?」
「恐らく、未だ語る時ではないとの判断であろう」
「語る時って何時だよ?」
「知らん」
 ゾーレウドは共有するリンクで交換できる記録と、口でしか語れない記憶を持つ。この記憶の部分は、外部リンクで抜くことはできない。
「後はやはりプネモスだな」
「プネモスなあ。でもあの男はカレンティンシスに嘘付けないってか、嘘付かない男だから何とも言えないが、知っていた所で何も語らないのは確実だしなあ……よし、帝国宰相。まずは考え方を変えてみよう」
「なんだ?」
「暗殺未遂事件にあんた達の存在があるから解り辛い。いいか? 王暗殺未遂事件がウキリベリスタルのシナリオ通りに進んだとして、その後どうなると考える」
「ゼティールデドレは大逆を命じた廉で処刑され、カプテレンダも連座だろう」
「実際の状況と変わらないように見えるが、大きな違いが存在する。それが命じたウキリベリスタルだ。王は己の密命に従って暗殺未遂を行ったカプテレンダを助けようとするだろう。助けるといっても、カプテレンダは相応の罰を受けるのは当然。となれば、助けるのはリュゼクと弟だ」
「そうなるだろうな」
「こうやって考えてみると、どうしてもリュゼクは大逆実行犯の娘になる。ということは、これはもうリュゼクを未遂か完遂かは抜きにして、大逆実行犯の娘に仕立て上げるための作戦だったと見て間違いないだろう。それでな、リュゼクが実行犯の娘になると、何が起こるか? という事だ。リュゼクの経歴に傷がつき、皇帝の正妃としての道が閉ざされる。カプテレンダがリュゼクを疎んでいたっていう証言とかは?」
「全く無い」
「だからこの作戦が成り立つんだろう。それでリュゼクの処遇だが、カプテレンダが王弟の命令に従い、娘の命を守るために従った。その婚約を定めたのは王であるウキリベリスタル……っていう事情を考慮して周囲をぐるっと見回すと、独身の王族ってのはリュゼクより七歳年下のカルニスだけじゃねえか。王族によって経歴に傷が付いたリュゼクを受け入れられる王族となりゃ、このくらいしかねえな」
「確かにライハ公爵はあの歳でもまだ婚約者が定まっていなかったが……普通にリュゼクを婚約者にしてしまえば、陛下の正妃として離婚させられることを考えての未遂事件か」
「あいつらはリュゼクをどうやっても王国から出したくなかった。正確に言えば王家の者以外、いやカルニスの妻以外にはしたくなかった。暗殺が完遂された上に、カプテレンダが前もって用意した証拠が役に立たない。だが王の真意を知っているカプテレンダはどうしても娘を大逆実行犯の娘にして、皇帝の正妃への道を完全に閉ざさなけりゃあならない」
「ハセティリアン公爵夫妻の仕事が完璧過ぎたようだな。残されていた証拠の品を手に入れることが出来ず、新しい証拠をねつ造する暇すらなかったカプテレンダは、ゼティールデドレの浅慮さに賭けたのだろうな」
 カプテレンダは暗殺に使われた証拠の品の一つも、探し出すことは出来きず、己の証言のみで暗殺犯になることを決意する。
 捜査が長引くのは、新王になるカレンティンシスにとって、大逆罪に問われている叔父がつけいる隙が大きくなことも考えてのこと。
「そうなる。皇帝の正妃への道を、国を挙げて、だが極秘裏に潰さなくてはならなかった理由。さすがにまだ解らねえなあ」

 そして何故カレンティンシスに秘密のままで、その様な事を行ったのか?


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