ALMOND GWALIOR −104
 どこの由緒かは知らないが、由緒正しく正座して石を抱きながら、自らの妃と向かい合うエーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル殿下 二十五歳。
「いやあ、なんつーの。だからさあ、アルカルターヴァがそう言ったから、近くで見ると違うのかなあと思ってよ。邪な気持ちはねえよ」
 逃走した帝王に変わって弁解するエーダリロクに、
「正直どうでも良いです」
「良いのかよ……」
 メーバリベユ侯爵は気にしてはいないと、抱き石に座り彼女が二人を伴って、エーダリロクを迎えに行った理由を語り始めた。
「異形について教えてくださいませんか?」
「異形だと……」
 メーバリベユ侯爵の口からこぼれ落ちた ”異形” に険しい表情をつくり睨み返す。
「私がなぜレビュラ公爵の異母兄弟を伴って貴方に会いに行ったとお思いで? 浮気現場を押さえるためとでも思いましたか?」
 タイミング良く、そして帝国宰相の異父兄弟を連れての登場。
「確かに。異形について知りたいのなら、ロッティス伯爵に聞くといい。あの伯爵は普通貴族として知る事が出来る事柄以上の事を知っている」
「私が聞きたいのはそんな事ではありません。単刀直入に聞きましょう、陛下の父君の中に異形はおられますか?」
「……」
 王族出ではない彼女は異形に関する知識は少ない。
 誰が異形なのかは、原則的に皇帝しか知らない。異形は神殿に登録されるものの、異形であることを公表する必要は無いので表に出てこない。
 異形同士はその特徴からすぐに解るが、エーダリロクの妻であり異形ではない上級貴族の彼女には縁遠く解らない筈だった。
「どうやら異形はいらっしゃるようで。そして殿下は誰が異形なのかご存じなのですね」
「驚いた。俺だって異形を掴むのに苦労したってのに。何が切欠だ?」
「無料で聞こうとお思いで?」
 少し大きめの口の両端が、綺麗に上がる。
「何が欲しい」
「私のために武器を作って下さい。私は何時でも戦う覚悟はできておりますが、戦う術がない。精神には自信があります、士官学校で武器の扱いも学びました。あとは私の非力を補う高性能の武器があれば、私は一人で完全に立つ事ができるでしょう」
 自分の抱いている石の上に腰掛けている妻の表情は、何時ものように自信に満ちていた。その迫力に息を飲み、
「解った。あんた専用の武器を作らせて貰う。ビーレウストのような特殊能力派と一般兵用の武器を作っている、その中間にあたるあんたに、俺の ”現時点の” 集大成を見せてやろう」
 誓った。
「本来でしたら契約書を取り交わすところですが、それは ”なし” にしておきましょう」
 彼女の言葉に、武器開発を秘密裏に行えと言っている事を瞬時に理解したエーダリロクは襟元からペリドットのカフスを外し手渡す。
「誓約書にはならんが持っていろ」
 メーバリベユ侯爵は握り締めて、その手の上にもう片方の掌をのせて、
「畏まりました」
 立ち上がり膝をついて、エーダリロクに向かって頭を下げた。
 彼女の語るところによると、后殿下の異変を突き止めるために調べた結果 ”異形” に辿り着いたと。
「ロガ后が?」
「然様。后殿下が宮殿を訪れてすぐに高熱を出したことは殿下もご存じで」
「それは全ての王族が知っているな。陛下の待望の正妃、健康状態は我々にとっても重要なことだ」
「ですが、奴隷という階級を前に、ある種の膜をかけて見ている感もございます。特に王族に生まれついた方々は」
 彼女の言葉に、エーダリロクは声を失う。
「后殿下の熱の元凶は ”恐怖” でした。過度の恐怖感から引き起こされた発熱。その検査結果をみたロッティス伯爵は、自然に熱が収まるのを待つことに決めました。この恐怖、本能的なものだったそうです」
「本能?」
 人造人間の子孫にはない人間だけが持ち得るものだとしたら、エーダリロクには想像もつかない。
「后殿下は何かに触れて、人間の本能が耐え難い恐怖を感じ高熱を発したと。その恐怖は何なのか? ロッティス伯爵は自らの夫と判断しました。過去に自分が同種の恐怖を感じたことから」
「……」
「ですが私はそれに疑問を持ちました。后殿下と陛下の逢瀬の映像の全てを確認して、それは確信に変わります。后殿下は奴隷として住んでいた惑星で、何度かロッティス伯爵の夫イグラスト公爵と会っています。突如高熱を出す原因とは考え辛い」
 皇帝は誕生式典以前は全て近衛兵団団長タバイが付き従っていた。皇帝が暴れた日を境に、胃に穴が空いた云々を理由にその任務から離れ、今はリスカートーフォン系僭主の秘密を探っている。
「団長のことは怖がっていないのか?」
「怖がられています」
「じゃあ……」
 確かに后殿下以前のロガという奴隷は、異形に直接会っていた。だが熱を出したことは一度もない。それは惑星上で彼女の身体データを採取していたエーダリロクは完璧に把握している。
「私は考えました。后殿下は ”異形” を見た目だけで判別する能力があるのではないかと。その前提のもと、あとは消去法です。あの日后殿下が高熱を発する前に出会った人物のなかで、初対面だったのは陛下の父君だけなのです。よってあの三人の中に、后殿下が恐怖により高熱を発するほどの ”異形” が存在すると」
 迎えが訪れた日、周囲を取り囲んだの近衛兵や、惑星で警官として警備に当たっていたエーダリロク、ビーレウスト、カルニスタミア、キュラ、ザウディンダル。
 帝星に到着後、出迎えにあがった帝国宰相、皇帝の父三人。
 顔の治療にと付き従ったシダ公爵夫妻。その後にメーバリベユ侯爵とフォウレイト侯爵。
 傍仕えである二人が紹介された頃には、既に熱が上がっていた。顔の治療によって精神的にやや不安定になったが、それとは別種の恐怖。
 夫を含む警備にあたっていた五人は除外、そして普通貴族出のシダ公爵妃、足を切って惑星に滞在し、后殿下に世話をして貰っていたシダ公爵も除外される。
 フォウレイト侯爵の身体的特徴は女官長であるメーバリベユ侯爵が完全に把握している。
 帝国宰相は皇帝がプロポーズする前日に、皇帝の代わりに后殿下を宮殿に連れて来るために、説得に向かった。その際にも后殿下は熱を出してはいない。
「私は私が異形でないことを知っています。となれば残るは陛下とその父君三人」
「なるほど。完璧ではないが、筋は通っている。その他にも似たような出来事はあるか?」
 だがこれだけでは弱いとエーダリロクは思ったが、
「ございます」
 ”后殿下” は他にも何かを感じ取っているらしい。
「聞かせて貰えるか? 追加料金も言い値で払う」
 このメーバリベユ侯爵を后殿下の女官長に付けて良かったなと噛み締めながら、
「そうですわね、追加料金として散歩しながら語り合いましょう」
「了解した」
 言葉に従って石を降ろして立ち上がり、腕を組むような形にする。それに彼女は腕を通して、庭に面している開け放たれた窓から二人は白い花で埋め尽くされている庭へ、ゆっくりと足を踏み出した。
 しばし外の空気と、小鳥のさえずり、白い花々の眩しさを楽しみ、二人は歩き続けた。大きな湖の前に辿り着いた所で、メーバリベユ侯爵は腕を放し湖の縁にしゃがみ込んで湖面を覗きながら会話を再開する。
「后殿下はケシュマリスタ王も恐れています。挨拶の際、手に触れられて怖かったと」
「あの野郎は異形じゃねえ」
「異形ではございませんね。ですがとてもお喋りな方のようです」
「ラティランの野郎が? お喋り? なんだ、あいつ挨拶の時に要らないことでも喋ったのか?」
「それはないでしょう。次に控えているのは私達の王ランクレイマセルシュ殿下。時間が押そうものなら、何を要求されるかわかったものではありません」
「兄貴ならそうだろうな」
「后殿下は手を触られた瞬間、頭に言葉が響いたと」
「……」
 凪いでいた湖面を撫でる風によって漣が揺れる。
 メーバリベユ侯爵は振り返ることなく、彼女も皇帝の正妃候補に選ばれたことによって知ったことを、それとなく告げた。
「エターナ、ロターヌ、両ケシュマリスタの子孫ですもの、それらの能力を持っていたとしても何の不思議もございません」
 ある種の個体は、一方的に意識の一部を相手に伝える事が出来る。その能力を持ったものをエターナ=ロターヌという。
「感受性が強いのか」
 意図的に怖がらせるためにラティランが行ったのか?
 その美しい表情の下からのぞく、抑えきれない人間に対する憎悪。その一端を普通の人間として生きて来た奴隷が無理矢理感じさせられたとしたら、恐怖を持って当然。
「そうかもしれませんし、普通の人間なのかも知れません。頭に言葉が響いたのは一瞬でだけで、后殿下本人は ”綺麗過ぎてびっくりしたんだと思います” 仰ってましたが」
「響いた言葉は?」
「それは教えてくださいませんでした。あまり良い言葉ではないのでしょう。后殿下は賢く、頭の回転も良くて言葉もそれは選ばれる方ですので」
「そうか。逆に不安や重責を抱え込みそうだな。それと……異形は皇君だ」
「やはりそうでしたか」
「帝君も異形だった。種類はかなり違うようだが、詳細は俺も解らん」
 メーバリベユ侯爵が ”時間なので” と迎えと共に去った後も、エーダリロクはその湖の縁に立ち、今聞いたことを整理していた。
「……待てよ!」
 奴隷后の言動を頭の中で整理していると、かなり危険な事が思い浮かんだ。

 異形を見分けられたロガが、両性具有を見分けられないという保証はない

 兄王が愛妾に囲まれて楽しんでいる部屋に突入し、そのまま引き摺って別の部屋へと連れ出してエーダリロクは叫ぶ。
「兄貴!」
「なんだ! 不肖の弟。お前のせいで、カレンティンシスに文句言われて大変だったぞ」
 不安げにのぞきにきた愛妾達に下がれと手で指示を出し、召使い達にも同様の指示を出す。彼等、彼女等は静かに遠離る。
「兄貴のことだ聞いちゃいねえだろうが!」
「それで何だ?」
「重要な事だ」
「……言ってみろ」
 弟の真剣な表情に、重大な何かが存在するのだろうと言葉を促す。
「后殿下と四王の対面儀式の際の出来事、語られた言葉の全てを集めてくれ。全てだ」
 愛妾達と戯れようとしていた時間だが、それは後回しにされた。愛妾を抱くのは好きだが、ランクレイマセルシュはそれ以上に他者の謎を暴き立てるのが好きだった。
「解った。お前は部屋で待っていろ」
 情報を集め、調べ、暴くのは得意で誰にも負けない自負のあるランクレイマセルシュだが、それらの情報から別の事実を発見する能力は弟のほうが優れている事を理解し、認めている。
 狡猾なるロヴィニアは、情報を集めるために全てを駆使し、弟が疑った事に到達した。

「ほぉ……帝国宰相が口止めしているとは。これは何か裏があるな。お前は何を嗅ぎつけた、エーダリロク」

**********

 ロガと四大公爵の対面なので、謁見の間ではなく応接室で行われる。
 二人掛けの椅子に座り、召使達が服の端などを整えて退出する。
「難しいことはないからな。初対面行為だが、実際は四大公爵側もロガのことは全て知っておる。あれ達が知らねば余の正妃として認めるわけがない。だから唯の儀式だ」
「はい」
 そうは言っても緊張の糸がほぐれるわけもなかろう。
 早々に切り上げて、ロガを元気の元であるボーデン卿の元へと連れて行かねば。ロガに極度の緊張を強いて、体調を崩させることは四大公爵も望まぬであろうし。
「ケスヴァーンターン、入れ」
 余が声をかけて、自ら扉を開いて傍に来るのが慣わしだ。
 慣わしといっても、これを行ったものは過去二人しかおらぬ。皇妃ジオと帝后グラディウス。
 最初の平民皇妃ジオ。彼女を正妃にしたのが賢帝と名高いオードストレヴ。賢帝はその知性を持って「前例がない」という典礼達の言葉を打ち負かし、四大公爵に文句一つ言わせぬ「皇族・王族以外の者を正配偶者に迎えるための儀礼」を自身一人で作り上げた。
 ……お、思えば凄い男だ。余はとてもではないが、思いつかない。
 賢帝の作った規則を知っているからこうしていられるが、一から作れと言われたら全くもって無理だ。デウデシオンでも無理であろう。さすが平民を正配偶者に迎えると初めて決めた男は違う。
 余はその財産の上に座り、こうやってロガを正妃にしようとしておるのだが……今、この段階になってはっきりと解るとは言えぬが、賢帝が苦労したのが何となく解ってきた。
 そうだな、賢帝は一から全て作り上げ、数ある王女を退けて平民を正妃に迎えたのだ。
 それに比べれば余は苦難の道を歩んではおらぬ。余自身が直系でないこと、ロガが初の奴隷であることも、賢帝からみれば苦難の道にはならぬであろう。そして、もしかしたら遠い子孫のための道を切り開くことになるかも知れぬ。
 此処まで来たのだ、絶対にロガ、いや『奴隷』を皇帝の正妃に、それも最高の地位につけようではないか。何時か奴隷を愛する子孫が苦労せぬように、一つくらい道を造り残してやろう。
「ケスヴァーンターン公爵にしてケシュマリスタ王ラティランクレンラセオでございます」
 ラティランクレンラセオは賢帝が作った書類通りの動きと言葉で挨拶を終えて退出した。さすがラティランクレンラセオ、全く隙がない。
「ロガ。震えておるが、大丈夫か?」
「……」
 正妃の手を取り、額をその甲に軽く置く。という儀礼がある。
 それを行った瞬間、ロガの体が硬直しラティランクレンラセオが離れた瞬間から、体が小刻みに震えだした。
 退出するまでは何とか持ちこたえたが、ラティランクレンラセオ部屋から出た直後、歯の根も震えるほどになってしまった。
「思ったままを言ってよいのだぞ。此処には余しかおらぬからな」
 肩に手を置き、頬に触れると今にも泣き出しそうな表情で、
「な、なんか……怖かったです。あの男の人」
 声を震わせ、そう呟いた。
 こ、怖いか……確かに見慣れねば怖いかも知れぬな。人間が持っていた美の極限を計算しそのまま映し出したものだから、裏側に潜む醜悪さもまた並ではない……なんだそうだ。よく解らぬが、美を追求した容姿であるが故に、それを受け入れられぬ者はその容姿に激しい嫌悪感を抱くらしいのだ。
 余や王族などの階級ならば慣れてしまっているが、容姿自体が奴隷などの人間には馴染めぬことも報告されておる。
 こればかりはどうにもならんしな、作った顔だから違和感も拭えぬであろう。人造人間の計算ずくで作り上げられた姿を「美」とするか? 「醜」とするか? どのように感じるかは自由であり、また「醜」に分類されたとしてもラティランクレンラセオの落ち度ではない。
「そうか。人に恐怖を与える容姿かもしれぬな。落ち着くまで待っておるから」
 サイドテーブルにおいてある水差しからコップに水を注ぎロガに手渡す。今回はこぼさずに注ぎ、渡すことができた。
 受け取ったロガも何時ものように笑い、水を飲み干して自分の側にあるサイドテーブルに置き、
「大丈夫です」
 頷いてくれた。
「あと三名だ、頑張ってくれ」
 全員同じ容姿だから、ロガを怖がらせてしまうかもしれないが、この先も付き合いのある王故に対面させないとな。同じ日に全て終わらせないと……色々あるのだ。
「ヴェッティンスーアーン、入れ」
「ヴェッティンスィアーン公爵にしてロヴィニア王ランクレイマセルシュですよ」
 容姿が容姿なので、あまり長居はさせられないな……思っておったら、
「緊張を長引かせるのは私の本意ではありませんので。義理妹である女官長・メーバリベユを通して私に何でも命じてください。帝国宰相パスパーダ大公は陛下の腹心、私は正妃である后殿下の腹心ですので」
 勝手に腹心宣言をして去っていった。
 おそらく、メーバリベユを通じてロガのことはほとんど知っておるのであろう……ランクレイマセルシュがロガの腹心になってくれることは嬉しいというか、ランクレイマセルシュに後ろ盾になってもらわねばならぬのは事実だ。後で説明せねばな。
「ロヴィニア王はどうであった?」
 同じ事をしてもランクレイマセルシュ相手では震えなかった。慣れたのであろうか?
「お顔は最初の人と同じ気がしたんですけど、最初の人と違ってナイトオリバルド様に似てるような。顔は違うんですけれどお兄さんって言われたら、そう思うかも……それに怖くなかったです!」
 ほう! 良くぞ見分けた!
「あれはエーダリロク、銀髪の警官であった男の実兄で、余の従兄でもある。帝婿のデキアクローテムスの兄の子だ」
「そうなんですか! セゼナード公爵さんとナイトオリバルド様は従兄弟なのは女官長さんから聞いてました。あの方がお兄さんだったんですか!」
 メーバリベユよ、ロガに家系図を教えてくれておるのか。感謝する……覚え辛い家系だが、何とか教えてやってくれ。解らなければ解らないで良いような気もするが……覚えていれば覚えていたで楽であろうから。
 さて、ロガも笑顔であるから次の王を呼ぶか。
「アルカルターヴァ、入れ」
 声をかけると、カレンティンシスの側近中の側近、ローグ公爵が扉を開き部屋には入らず廊下で床と一体化してしまうのではないか? なる程の平身低頭しながら、
「陛下、申し訳ございません。王が少々具合が悪く、エヴェドリット王と順番を交換していただけませんでしょうか?」
 申し出てきた。
 順番を変えるの、テルロバールノル側から申し出ておるのならば構わぬ。
「余は構わぬが、エヴェドリットの方は用意が整っておるか?」
 ローグ公爵が連れてきたのだろう、ザセリアバの側近であるシセレード公爵が、同じく平身低頭しつつ、
「整っております」
 答えた。
 一度扉を閉め、ノックされるのを待つ。それにしてもカレンティンシス、無理してまで挨拶に来なくとも……とも言っていられぬか。
 ノックが聞こえたので、合図をだそうか。
「ではリスカートーフォン、入れ」
「リスカートーフォン公爵にしてエヴェドリット王ザセリアバ=ザーレリシバという」
 目が覚めるような赤を使った軍服を纏ったザセリアバは、どの王とも違う行進調の足音を立てて傍に来て “リスカートーフォンにしては” 最大限に大人しく挨拶をしてくれた。
「エヴェドリット王はどうであった?」
「すごく強そうな感じがしました。前の二人の王様とお顔は似てるけど、お洋服のせいかな? すごく違って見えます。一番男らしい感じがしました」
「そうか。凄いな!」
 余はあまり見分けがつかぬのだが、ロガは随分とはっきりと見分けているようだ。
 カレンティンシスが来るまで少し時間があるので、ロガと雑談でもするか。
「今までで何か聞きたいことでもあるか?」
「あの、ナイトオリバルド様。王様って挨拶する順番決まってるんですか?」
「決まっておる。この順番を変えると、争いになるほどに決まっておるのだ。一番はケシュマリスタ、これがシュスターの最初の部下になった一族。次に家臣となったロヴィニアでこれが商人だった。その次がテルロバールノル、宇宙連邦時代に王制に固執し続けた地球時代より続く最古の王家。そして最強の傭兵部隊を率いてこちら側に寝返ったエヴェドリットが最後だ。仲間になった順番で挨拶や呼び出しをするのが慣習であり、決まりであり、各々の矜持となっておる」
「寝返ったって……最後の敵エドレ・シェートでしたっけ? 寝返った頃はバレンス・シェート? だったけかな?」
「良く知っておるな! ロガ」
「ゾイが教えてくれたから。聞いた時は試験に合格できるほど頭良くないから必要ないと思ってて……ゾイが教えてくれたの、いっぱい覚えておけば良かった。でもナイトオリバルド様のところに来ることになるなんて、思ってもみなかったし」
「無理に覚えずとも良い。興味があらば覚えればよいだけだ。過去の争いなど、必死に覚えずとも良い」
 色々と話をしているとカレンティンシスが来た様で、扉をノックする音が。ロガに何処まで教えるかは、一人で居る時に考えよう。今は先ず挨拶を終えてしまおう。
「アルカルターヴァ、入れ」
「アルカルターヴァ公爵にしてテルロバールノル王カレンティンシス」
「具合の方は良いのか」
 今にも倒れてしまいそうな顔色をしておる。
 聞いた所によると、デウデシオンと互角を張るほど怒って倒れてしまうそうだな。怒るなとは言わぬ、でも倒れるほど激怒するな。
 だがもしかして倒れるほどの激怒の理由がカルニスタミアとザウディンダルの関係であれば庶子達を束ねている一応の責任者である余のせいであり……余が今度謝るから、その……な。
「ご挨拶に体調を崩してしまい情けない限りです」
「良い。体を厭えよ」
「ありがたきお言葉」
「体調を取り戻してから改めて余の正妃に挨拶するがよい」
 ロガにとっても、カレンティンシスにとっても挨拶は短めの方が良いので簡単に終わらせた。
 無事に挨拶も終了し “終わったぞ” と声をかけるとロガは大きな深呼吸をして、余の方を向き、
「私、失敗しませんでしたか?」
「立派な態度であった。見事だ」
 尋ねてきたので、本心から感謝を込めて褒めた。
 部屋に入ってこようとする召使を手で制し、少し話をして緊張を解させよう。最後のカレンティンシスをどう思ったかも尋ねておきたい。
「テルロバールノル王はどうであった?」
 ロガは笑顔で不思議なことを口にした。
「あの王様だけ女の人なんですね!」
「…………え? 女に見えたか?」
 皇族や王族は名前にも性差がないので、名を聞いただけでは男か女か解り辛いものが多いが、
「男の人なんですか!?」
 カレンティンシスは男なのだ。
「男だ。王妃もおれば息子も三人おる。ゾイが働いておる貴族庁の長官にして、ロガの女官長メーバリベユの夫……一応夫であるセゼナード公爵が属する技術開発局の局長も務めておる」
「すみません! 何か女の人に見えちゃって。内緒にしておいてください!」
「気にするな。綺麗な顔立ちをしておるから間違え……」
 他の三人は同じような顔立ちだが男だとはっきりと解っておったのだから、顔で判別したわけではなかろう。
「テルロバールノルの王様って、ザウさんのお兄さんなんですか?」
「…………ん?」
「黒い髪で細身の人、ザウさんですよね。ザウディンダルさんでしたっけ?」
「ザウディンダルだ、ザウでも良いのだが。あー……テルロバールノル王の実弟は “カル” こと、カルニスタミアだ。両親とも同じ兄弟だが似ておらぬか?」
 言いながらだが、カレンティンシスとカルニスタミアは全く似ておらぬなあ。あの二人並べても、兄弟には確かに見えぬ。
「言われてみれば。ザウさんとカルさんも似てますよね! 私ずっと姉弟だと思ってました!」
「えーと、多分遠縁の親戚にはなる筈だ。大体皆、遠縁の親戚にあたる……ええ? 姉弟?」
「また変なこと言っちゃいましたか?」
「ザウディンダルは余の異父兄弟、父親が違うが余の兄だ。カルニスタミアよりは年上だが」
「じゃあ、ザウさんのお父さんはセ、セボリー、セボロー……」
「セボリーロストのことか?」
「はい。セボリーロストさんなんですね?」
「違うのだ。あの、異父というのは正式な配偶者の子ではないことを指してな……」

 ことごとく間違ってしまったロガは顔を赤くして「きゃー恥ずかしい」と言いながら小さくなってしまった。その仕草も可愛いな。

**********

 企み以外感じられない兄王から報告を受け取り、目を通したエーダリロクは驚きにしばらくの間声を失った。
《……これは恐ろしいまでに》
 エーダリロクの内側で 《銀狂》 も驚きに満ちた声を上げ、既に持ってはいないがエーダリロク同様声を失う。奴隷がここまで正確に、彼等の隠している血統を見破ると、エーダリロクも 《銀狂》 も思っていなかった
「何てことだ……そう言や、この後すぐに庶子兄弟、家族を集めての私的なパーティーを開いていたな……」
 儀礼ではない私的なパーティーを開いた経緯。そして四王との対面後に、皇帝は帝国宰相に何処まで后殿下の言動を伝えたか?


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