ALMOND GWALIOR −103
− リュゼクは王妃になるべき女じゃ……

 それは正しい言葉ではない。カレンティンシスは自分の正直な気持ちを語ることはできない。リュゼクを王妃にしたいのは、これもまたラティランクレンラセオに言わせると ”安っぽい人間の感傷そのもの”
 贖罪という表現ともまた違う、自己満足に近いものだとカレンティンシス自身も理解してはいたが、それでも彼女を王妃にしたかった。

 父王暗殺実行犯がカプテレンダではない事は明白。

 彼の持っていた証拠は揃いすぎていた。完璧に有罪になる証拠が揃えられていたのだ。そして証言も、見事なまでに筋が通り破綻がなかった。最初から最後まで、何度同じことを尋ねられようとも、推敲し覚えてきた筋書きを語っているようであった。

 そこには決定的な破綻が存在する。

 父王の殺害方法と凶器は、カプテレンダが提出した凶器とは全く違い、殺害方法も違った。提出された凶器は銃であり、殺害方法は銃で腹部を撃ち抜いたとなっていた。
 だが実際は、短剣で腹を五箇所突き刺され、二箇所引き裂かれていた。それを聞かされてもカプテレンダは引き下がらない。
 彼が引き下がらない事と、自分が犯人ではないと立証できない叔父のゼティールデドレ。
『犯行を命じておらぬなら、カプテレンダを説得せよ』
 カレンティンシスの譲歩だったが、叔父は受け入れなかった。”説得する自信などない” そう言って武力を用いた。
 叔父が武力行動に出たことを教えられたカプテレンダは、安堵の表情を浮かべるのをプネモスは見た。
 同じ王の側近であったカプテレンダとプネモス。その笑顔と、描かれたような大逆に、プネモスは何度も説得を試みたが、結局面会に訪れた己の妃と共に自害する。
 彼は何も語らなかった。
 それに対し、プネモスは何も言うつもりはない。自分が同じ立場であったなら、語らないと言い切れるからだ。
 だがプネモスは説得した。理由はリュゼク、カレンティンシスがその処遇に最も心を砕いた少女。

 犯人は別の所にいる、実行犯は別人だ。それらを知っているが、暗殺の実行犯に ”なることを切望しているカプテレンダの意志を尊重して” カレンティンシスは彼を暗殺実行犯とした。

 頑なに実行犯だと言い張ったカプテレンダ。だが何かを庇っていたかといえば、そうではない。何をも庇わずに、だが実行犯だと言い続けた彼。
「ゼティールデドレが説得に応じたならば、また別の道もあったのではないかと儂は今でも思っておる」
 犯人が何処かにいるが、それを見つけ出すことが出来ないまま。
 大逆実行犯の娘と言われ続けるリュゼク。彼女は自らは独身を貫くと言い張っているが、カレンティンシスは許可していない。
「バルバウテウも姉リュゼクのことを心配しておりますな」
 弟は結婚している。
 その結婚相手の姉がアロドリアスの妻。
 側近中の側近プネモスの息子が娶った一族の女性を与える。周囲には彼女達がカレンティンシスによって赦されたと映るようにの配慮。
 カプテレンダに似て頑なに結婚を拒否するリュゼク。
 父が大逆に与した理由が己にあるという報告書が関係しているのは明白だった。
 かつてリュゼクとバルバウテウを守ろうと創り上げ記録させた嘘が彼女を苦しめる。

− 彼女を解き放ち、同時に王国を弟と共に守ってくれたならば

 それはカレンティンシスの望み。その為にも父王暗殺の真実を知りたい。
 叔父ゼティールデドレが命じていないすると、消去法でもう一人の叔父セボリーロストが浮上してくる。
 父王の殺害された場所が、空中城シャングリラの王族以外は立ち入る事が出来ない区画だった事からも、王族に協力者がいなければならない。カルニスタミアはあらゆる角度から考えても、全くの関係していないことが証明されている。
 よってセボリーロストなのだが、彼が命じたとして、実行犯が誰なのか? となると、カレンティンシスは全く見当が付かない。
 セボリーロストが兄である父王を殺害して何かが手に入るのか? 考えた時、何も思い浮かばないのだ。実行犯が今の帝国宰相、当時の帝国摂政デウデシオンの手の者と考えると、正体不明のハセティリアン公爵が真っ先に上がるが、これは物証も何も無い。

 全てが何処かで断裂し、だが全てが何処かで繋がっている。それを肌で感じながらも、何一つ見えてこなかった。

「儂はあの時真実に辿り着くことができなかった。辿り着いておれば、真実は明記できぬことであったとしても、知っていたなら教えてやることもできるのじゃが」

 王の暗殺事件が未解決では誰も納得せず、カレンティンシスを王と認めない。だからどうしても犯人が必要だったのだ。

**********

 真実を知ることができたら

 辿り着いた真実がの全てが、他者によって導かれた誤りだったとしたら

**********

 カレンティンシスの許可を得たエーダリロクは、手順を書いた書類をザウディンダルに渡し、「目通してくれな。資材や整っているし、書類は俺が出しておくから。お前は修理だけで」
「おう」
 面倒な部分は全てエーダリロクが用意し終えていた。
「そんなわけで、機嫌取ってきてくれる。あの人、帝国騎士としちゃあ俺の上司だしさ」
「本当にそれが原因なのか?」
「うん(嘘だけど)……それにしても、お前の顔って “憂いを帯びて可憐で儚げ” って言うんだ。知らなかった」
 言いながらエーダリロクはザウディンダルの両頬に掌を添えて、少し力をこめて固定して顔を近づける。
「言わねえよ!」
 近付いてきた ”帝国の知性” と言われる怜悧で冴え冴えたる美をもつ顔だが、抗いがたい威圧感もあった。逃れられないエーダリロクの視線と手と雰囲気だが、ザウディンダルは恐怖は感じなかった。
「でも貶してたわけじゃねえよな? ガーベオルロド公爵閣下に “憂いを帯びて可憐で儚げ” 言えば怒りはしねえよな」
 皇帝シュスタークによく似ている雰囲気は拒否することができない。
「たぶん、怒らないとは思うけど」
「じゃあ、褒めてるんだよな」
「褒めてるかどうかは知らねえ」
 自分のことを “憂いを帯びて可憐で儚げ” と言える者は中々存在しないだろう。
「あのアルカルターヴァがそう言ったんだ、やっぱりザウ綺麗なんだろうな」
 ただ話すにしては必要ない程に近付いてきた顔。それがエーダリロクのものであったなら、ザウディンダルは簡単に振り払うことができただろうが、今自分の頬に手を添えて近付いてきた男は違っていた。
 別人だとザウディンダルははっきりと感じながら、抵抗することができない ”誰か”
 風が ”風にたとえられる銀髪” を舞わせ、そしてザウディンダルは今にも触れられそうな唇を開き小さな声で、
「エーダリロク……」
「どうした? ザウ」
「背後にお前のお妃様が……」
 死亡報告。
 エーダリロクの背後にメーバリベユ侯爵が立っていた。
 ザウディンダルの声に、驚いて振り返った夫であり爬虫類好きは、
「お許し下さい、奥様様! 別に浮気してるわけでも、口説いているわけでもございません! 俺が口説く相手は爬虫類と決まっているのは! 貴方様もご存知でしょう!」
 見事な勢いで土下座した。王子がここまで華麗に土下座できるとは! 唸りたくなるほどに。
 ”土下座上手いな……”
「土下座したということは、見られたら困る事をしていた自覚があったとみてよろしいのですね」
「あ、あの……メーバリベユ侯爵」
 どうやってこの場を収めようかとザウディンダルが声をかけると、余裕の侯爵は、
「私の刺繍は気に入っていただけたでしょうか」
 優しい笑顔をザウディンダルに向けた。逃走しようとしている夫の襟首はしっかりと掴んで。
「うん! ありがとう!」
「良かった。そして本来でしたら、このままこの人とレビュラ公爵で資材の最終確認に向かう予定だったそうですが、この人を少しばかり問い詰めたいので借りていきます。代わりと言っては失礼ですが、お願いします」
 侯爵の声をうけて、ザウディンダルの異父兄クリュセークと異父弟セルトニアードが現れた。
「代役というには失礼なお二人ですが、私の夫の代役、お願いしますね。それでは失礼しますね、レビュラ公爵」
 エーダリロクに口を挟ませる隙を作らず、笑顔で力押し。
 見事なロヴィニアの王弟妃であり、もしかしたら自分達の兄弟ではあるが兄弟ではない皇帝の皇后にもなっていたかもしれない彼女に、武官のクリュセークは礼をし、セルトニアードは敬礼をした。
「あ、はい。あ……セゼナード公爵妃殿下」
「そのように言ってくださるなんて嬉しいですわ」
「ちょーザウ!!」
 本気だったら簡単に手を払って逃げられるだろう男は、襟を掴まれたまま大人しく従い歩いていった。
「……さ、行こうかザウディンダル」
「そうしましょう、ザウディンダル兄。そうだ、遅れましたがザウディンダル兄、お仕事に就かれて御目出度う……は、おかしいか」
 兄弟と仲良く歩き、その場を立ち去った。

− ちょっと! あんた、勝手にザウに触れようとして
《浮気は全て私の責任か?》
− 今のはあんたがはみ出してただろうが! 絶対あんただ!
《言われてみれば。代わりに私が謝ろうか》
− やめろー。この人は賢さと同時に鋭さもある。何時気付かれるか、ヒヤヒヤしてんだからよ
《隠し通す気か?》
− もちろんだ! だから、いや! さっきなんでザウに!
《両性具有が好きだ。可愛らしいものは大好きだ。憂いを帯びた両性具有は大好物だ》
− あんたなあ!

「独り言ですか、殿下」
 足を止めて振り返った侯爵を見て、銀狂は殻にこもった。
「あ、うん。独り言……」

− 逃げんじゃねえよ! 帝王ザロナティオン!
《シャロセルテは死んだ》


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